第13話
勇者のいる王都に到着しました。
何故僕も一緒に来ているのかというと、村まで迎えに来た騎士の方に僕も同伴するように言われたからです。
表情には出していませんが、納得がいってません。
せっかく僕は村に残れるように聖女様を説得を頑張ったのに、騎士の一声で全てが水の泡となったのです。
「それで勇者様にはどこで会われるのですか?」
聖女様の問いかけに騎士が答えます。
「王城にて勇者殿と対面していただきます」
王城?何故わざわざそんな所で会うのでしょうか?聖女様も僕と同じ疑問を持ったらしく騎士に質問していました。
勇者が誰なのか分かるのはシーア教の限られた方だけです。なので当然、勇者は教会が保護したと思っていたのですが、どうやらこの国が先に勇者を保護していたらしいのです。
勇者だと分からないのにどうやって保護したのか?
その経緯を騎士が語ってくれました。
この国の王はシーア教会の勇者などに頼らずもっと強いナニカを召喚魔法で呼び出し、魔王を討伐しようと考えたみたいです。
「それは危険では…?」
「はい。これは非常に危険な行いです。もしかしたら、魔王よりも厄介なナニカを召喚してこの世界を滅ぼしていたかもしれません」
ただ幸いにも、異世界の人間を召喚されただけで済み、その人物こそが勇者だったということです。
そして、この国はシーア教に恩を売ることが出来たらしいです。なんとも幸運なことですね。
「勇者様は異世界人なのですね」
「ええ、文化の違いがあるかもしれませんので十分お気をつけください。それと他の勇者パーティメンバー候補も王城に集まっていますので親交を深めるのがよろしいかと」
「はい。考えておきます」
聖女様は大変そうだと思いながら2人の会話を聞いていると、騎士がこちらを向いて来ました。
「それとクノウ殿」
「はい」
「貴方を同行させたのは聖女様の要望だったことと、他のメンバー候補者も貴方の知人であることから橋渡しの役目をやって頂きたいからです。頼まれてくれませんか?」
他のパーティメンバーが僕の知人……。
誰でしょう?
…………ん?聖女様の要望?
僕は聖女様の方を見ます。
彼女は僕と目が合うと直ぐに逸らしました。やけにあっさり説得に応じたと思っていたらそういう事だったんですね。
……まあ、もう過ぎたことです。
それと騎士の人の頼まれ事はどうせ断る事なんて出来ないのですからやるしかありません。
「分かりました。出来る限りの事はさせて頂きます」
王城に赴きました。僕は聖女様の後ろに控えているだけでいいので気は楽です。
聖女様は色々と挨拶があった後に勇者とパーティメンバーと面会することになりました。
勇者は聖女様と同い年くらいの黒髪黒目の男性の方のようです。
彼は女性陣を見ながらソワソワして落ち着かない様子です。そして勇者パーティのメンバーは全員僕の知り合いでした。
「お初にお目にかかります勇者様。ルーナと申します。僭越ながら今代の聖女を務めさせていただいています」
「はじめまして!神殿騎士のティアです。このパーティでは剣士として頑張っていきます」
僕の幼馴染のティア。確かに剣の腕は凄かったですけど、勇者の仲間になれるほどの腕前だったとは……。
「王宮魔法使いのメルヒナと申します。勇者一行に加わえられること、大変嬉しく思いますわ」
王宮魔法使いのメルヒナさん。この国の王立学院で1年間通った時に、魔法を教えてもらったりと仲良くして頂いた友人です。そういえば魔使いとして一流だとか聞いたことがありましたね。
「あ、ああ。俺は宮木カイト。カイトって呼んでくれ」
「カイト様ですね。宜しくお願い致します」
それから4人で軽く雑談したのち、勇者様はこの世界の礼儀作法や剣や魔法の特訓の為、部屋から出て行きました。
僕と聖女も聖女様専用の控え室へ行き、他の人の目がなくなりました。
「……クノウ、勇者様はどうでしたか?」
部屋に来て直ぐに聖女様が勇者について聞いてきます。
「どうと言われましても……。悪印象は抱かなかったです。普通の男性のように感じました」
魔王討伐した暁には、かなりの確率で聖女様の旦那様になる方です。妹のように思っている聖女様に相応しいかそれなりに観察しましたが、余りにも普通でした。
「そうですね、普通でした。もっと勇者様には特別な何かを感じると思っていたのですけど……」
ジッとこちらを見てくる聖女様。ため息をついてから立ち上がり、部屋を出ようとします。
「少し疲れたみたいなので外の空気を吸ってリラックスしたいです。クノウ、付いてきて」
執事の方に王城の庭に案内してもらい、聖女様と一緒に散策します。
「全員クノウの知り合いなんてね。驚いた?」
「はい。こんな偶然あるんですね」
「偶然かなぁ?ま、いいけど……」
なんだか聖女様、元気が無いように感じます。小さい頃からの付き合いなのでなんとなく分かります。
「…………ずっとね、勇者様ってクノウなんじゃないかって思っていたんだ。でも違った。それがなんだか凄くショックなんだ」
「それは……」
なんと言えばいいのか分からず、黙ってしまいます。
「クノウが勇者で、私が聖女。それならずっと一緒に居ても誰も文句は言われない」
だけど、現実は違います。
「うん、都合のいい妄想。現実は思い通りにはいかないね」
彼女は昔から僕と一緒に居たがり、ワガママを言ったり癇癪を起こしたりと周りを困った子でした。
「はい。確かに僕は勇者でもないただの神父です。ルーナとずっと一緒にいることは叶わないでしょう」
「…………うん」
でももう違う。立派な聖女となり、人々から尊敬される人物へと成長なされたのです。そんな彼女にしてやれる事なんてこれくらいでしょう。
「ですが、約束した通り僕はできる限り貴女と一緒にいられるように努力します」
「約束…」
何年も前の約束。駄々をこねられ、神学院に通うために仕方なくした約束です。
『ずっと一緒にいること』
交わした時はすぐ忘れるだろうと思い、問題にしませんでしたが、残念ながらずっと覚えられていて厄介この上なかった約束です。ただ、直近の2年間でやっと聖女様も忘れてくれそうだった約束を、僕は引っ張り上げ思い出させました。
「ふふっ、言質とったよ」
「はい?」
「引っ掛かった〜♪」
あ!演技でしたか。
こんな嘘の演技をするなんて叱るべきなんでしょうけど、聖女様の嬉しそうに笑っている姿を見て、叱るに叱れなかったです。
「クノウ様、こちらです」
「ありがとうございます」
聖女様と別れて自分の部屋で過ごしていると執事さんがやって来て、ティアが僕を呼んでいると言われ、彼女の部屋まで案内されました。
「やっほ、クノウ君。さっきは全然話せなかったから呼んじゃった」
久しぶりに会った彼女は満面の笑みで僕を迎え入れました。
「久しぶり。神殿騎士の仕事はどうだった?」
「もーのすっごく忙しかった!!」
最近、魔物が活性化した影響でいろんなところに駆り出されたそうです。
「それで結構活躍したからかな?勇者一行に加わってくれないかって誘われたんだ」
ティアは神殿騎士の中でも頭角を現しているようです。まさか幼馴染がこんなに凄い人になるとは思いもしなかったですね。
「そうなんだ。頑張っているんだね」
「ねぇ、クノウ君の2年間はどうだったの?こっちで詳しく聞かせてよ」
と言いながら、ティアは2人がけのソファに座り、ポンポンと軽く叩いて隣に座るように促してきます。
ティアが嫌でないのなら拒否するのも悪いですし、隣へと座ります。
少し距離を置いて座ったのですが、ティアが少し動いたら触れ合ってしまう距離まで詰めてきます。
「あの…ティア?」
「ん、どうしたの?」
「いや、なんでもないです」
気にしてないのなら……いいのでしょうか?
では、何から話しましょうか。まず聖女様と一緒に村の教会で住むことになったことを語りましょう。
「へ、ヘェ〜。聖女様と……」
「大変だったよ。お偉いさんから、もし聖女様に何かあったら…って脅されたり」
まぁ、脅した人は父に告げ口してどこかに飛ばしてもらって解決しましたけど、その他にも村に派遣されるまでにいろいろな面倒事に巻き込まれました。その詳細はティアに話すほどの事では無いですね。
「それで聖女様が──」
「うんうん」
2年間にあったことをそれなりの時間をかけて話し終えると、互いに話し疲れたせいか、ゆったりとした時間となりました。
「……………お互い大変だねぇ」
「………うん」
「あーあ。学生に戻りたいな」
「そう?」
「そうだよー。学生の時も忙しかったけど、クノウ君がいたからね」
「僕?」
「そう。クノウ君のお世話とかすっごい楽しかったんだよ。なんでだと思う?」
………何ででしょう?パッと思いついたのは、
「ティアはお世話好き?」
「違います〜」
そうですよね、発言して何となく違うと思いました。じゃあ他の理由はと考えても思いつかず……。
「分からないです。教えて」
ティアに素直に聞きます。彼女はそれを聞いて、「だと思った」と言って笑っています。
「ふふっ、まだ教えない。これは宿題とします」
「なにそれ」
「クノウ君、他人の事考えているようで考えてないよね。この機会にもうちょっと人に興味持つようにしよう」
結構考えているつもりなんですけど、ティアからしたらまだまだなんですかね。
その後も他愛もない話をしていたら、もう遅い時間になっていることに気づきます。
「じゃあそろそろ帰るよ。ティアも元気そうで良かった」
「……うん、クノウ君も。おやすみなさい」
ティアの部屋から出たら案内してくれた執事さんがいました。
「クノウ様、メルヒナ様がお呼びです」
ええ…。今度はメルヒナさんですか。もう夜も更けており、未婚の女性が2人きりで会うのはいかがなものでしょうか?と、執事さんに言ってみたんですけど、押しが強くそのまま案内されてしまいました。もう寝たい……。
「お待ちしておりました、クノウ様。夜分遅くに呼び出してしまって申し訳ありません」
きっちり挨拶をしてくれるメルヒナさんなのですが、服装がやや薄着で問題がありそうな気がします。
「いえ、お気になさらず。僕もメルヒナさんとお話ししたかったですから」
「そう言ってくれると助かります」
挨拶が終わると席に案内され、僕はメルヒナさんの対面に座ります。
「メルヒナ様とは3年ぶりですね。ますますお美しくなっていて驚きました」
「あら、ふふ。クノウ様にそう言ってもらえるなんて嬉しいですわ」
お世辞も言われ慣れているといった感じで平然と受け流し、お返しとばかりに僕のことを褒めてくれました。
最近の近況についてや勇者一行に加わることになってきっかけなどの話を聞きながら、僕はタイミングを見計らい、ずっと気になっていたことを聞いてみました。
「あの後のこと聞かせてもらえますか?」
「ええ、勿論ですわ」
僕が王立学院に通っていた頃、メルヒナさんはこの国の第二王子キルヒ様と婚約していました。ですが、王子は婚約者がいるにもかかわらず仲良くしている女子生徒がおり、嫉妬したメルヒナさんがその生徒を虐めてしまったことで、王子とメルヒナさんの関係が完全に終わってしまったようでした。近いうちに婚約破棄されると教えてもらったのですが、その結末を迎える前に僕は王立学院から去ったのでその後どうなったのか知りません。
メルヒナさんもその件について話すつもりだったらしく快い返事をくれました。
「クノウ様がいなくなってから1週間後、全校生徒が参加するパーティーがありまして、そこでキルヒ様から婚約破棄を言い渡されました。全生徒がいる前で、です」
おっと、聞かなきゃよかった……。怒り心頭だったのでしょう。メルヒナさんは当時のことを思い出しているのか笑顔が不自然です。
「全校生徒の前で言ったのですか、キルヒ様は?」
非常識極まりない話です。普通、当人同士と婚約を結ばせた父親の4人で話し合いをしてから解消するものです。
「はい、わたくしも想定外でした。それに国王陛下に婚約破棄する旨をお伝えしてもいなかったなんて…」
貴族同士の結婚は政略結婚が主流です。
メルヒナさんとの結婚は王族、王国に利があったのでしょうが、それを第二王子の独断で婚約破棄をしてしまいました。
まだ2人きりで言い渡したのなら未だしも、多くの人がいる前で宣言したのですから取り消すことは難しいでしょう。
メルヒナさんの父親である公爵はこれに大激怒。第二王子の父親、つまり国王は公爵の怒りを収めるために賠償金と大きな借りを作る事になったようです。
「国王陛下自ら、わたくしに頭を下げてくださいました」
メルヒナさんは魔法使いとしても優秀ですから、他国に行かれては大きな損失になると考えたのでしょう。国王は、彼女がこの国に留まってくれるように学院卒業後は破格の待遇で王宮魔法使いとして雇うと取り付けたそうです。
驚いたことにそれでも第二王子は一応まだ王太子のままであったとのことです。
理由としては、第一王子は小さい頃から病気で床に伏せていること、他に王族の男性がいないことから現状維持にするしかなかったようです。
ただ、大きな失態をした第二王子が王を継ぐのは危険であると考えた王は、今回だけの例外として姫の婿を王にしようかと考えます。そのことを聞かされていたからメルヒナさんは、王宮魔法使いとして働くのを我慢できたそうです。
自分が王になれないかもしれないと耳にした第二王子は、自身が王になる為に父親の評価を取り戻すそうとしたみたいでした。
「それで学院で取り巻きだったクリス様とナイル様の3人で、魔王を倒す生物を召喚しようとしたら、勇者様を召喚したという訳です」
「そこに繋がるのですね」
召喚なんて馬鹿な真似をした犯人が自分も知っている人だったとは……。
「そして王宮魔法使いたちから召喚の危険性を聞かされた国王陛下は、キルヒ様を正式に王太子から外しました」
これだけやらかしが多ければ当然の結果ですね。
「そうだったのですか。教えて下さりありがとうございます」
何というか、この国の王様は大変そうです。
「いえ、構いません。少し暗い話ばかりでしたわね。もっと楽しいお話を致しましょう」
話題を変えようとメルヒナさんは僕に話を振ります。
「クノウ様は今婚約者はいらっしゃるのですか?」
「いないです。僕の家はその辺り自由にさせてもらえています」
何度か顔合わせをさせられる事はあるのですが、僕が拒否したり、母も認めなかったりして父を困らせています。
僕は一生結婚するつもりないです。
「まあ!そうなのですか。わたくしもこの国の貴族とはもう結婚出来そうにありませんから、父には好きにしていいと言われているんです」
ちょっと重い話になってきてませんか?
「メルヒナさんはお美しいですから、勇者様との旅で他国の王子様なんかに求婚されてしまうかもしれませんね」
「……それも魅力的ではありますけど、貴族とは違う身分の方との恋愛も憧れます」
身分違い、平民とですか。それは生活の違いで苦労しそうです。
「メルヒナさんとそういった仲になれる方は羨ましいですね」
「ふふふ。そうですか?」
「ええ、勿論」
「………」
「………」
………………?何でしょう?この空気。
ジッとこちらを見つめるメルヒナさん。それに釣られて僕もメルヒナさんを見つめ返してしまいました。なんだか危険な気がするので自分の部屋に戻ることにしますか。
「そ、そろそろ部屋へ戻りますね」
「ふふっ、照れちゃったのですか?」
照れる要素あったでしょうか?
疑問を投げかけようと視線をメルヒナさんの方へ戻すと、彼女の顔が真っ赤になっています。何故?
「メルヒナ様」
「なっ、何ですか?」
「顔真っ赤ですよ」
「…………………うるさいですよ」
「その、大丈夫ですか?もし風邪だったらいけないので「だっ、大丈夫です!」
「こほん、少し想定外の出来事でしたので取り乱してしまいました。クノウ様、今夜はお越しいただきありがとうございました」
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