第16話

数日後、彰吾はお手伝いさんー治子さんから、

山科家への招待を受けた。


インターフォンを鳴らすと若い女性が出迎えてくれた。


しばらく部屋で待っていると、

紅茶のカートを押した治子さんがやって来た。


「治子様、紅茶でしたら私たちが致しますので、どうかソファにお掛けください。」


「いえ、この方は特別な方なの。だから、私がおもてなしをしたいの。」と、治子さんは笑う。


治子さんにより、真相がわかった。


治子さんは、19歳の時にお手伝いさんとして、この山科家に入ったという。

大旦那様は、いつしか治子さんを見初め、やがて二人の間には優也さんが生まれた。 


翌年、産後の日だちが悪く亡くなった妻の代わりに、治子さんが陸郎さんの乳母となった。


婿養子だった大旦那様が、治子さんと婚姻関係を結ぶ事や優也さんを認知する事は、叶わなかったらしい。


やがて子供が成人し、二人に少しずつ事業を学ばせていた。自分の後継人を考え、悩み始めた大旦那様だった。

どちらも自分の子供でありどちらも可愛い。

しかし優也さんは、不義の子。

大旦那様は最終的に、陸郎さんよりも商才と人を惹き付ける魅力あふれる優也さんを会社の後継ぎにと望んだ。

いずれ遺言書に記そうとしていたが、不幸にも急死した大旦那様の財産や会社は、1人息子の陸郎さんとその親族達に引き継がれてしまった。


陸郎さんは、″約束″について治子さんに語ったという。

その約束とは、自分が消える代わりに、治子さんには何不自由ない生活をさせてほしいというものだったそうだ。

約束を忘れた事はなかったが、本人は亡くなっているし、もう時効と思っていたらしい。


陸郎さんは、あれから治子さんを実母の様に扱っているという。

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