第21話

朝からの雨に、彰吾は鬱々としていた。


猫神様がお選びになる方は、命日と関係があるらしいけれど、僕にはまだまだデータが少ないな。

今度から、お話を伺う時に、さり気なく調査するようにしよう。


祖父や父親は、今までどのくらい見届けてきたのだろうか。

書き留めてはいけないから、記録はないよな。


見届け人って、なぜ薬利家なのだろう。

聞ける事は聞いておきたいな。


窓をつたう雨粒が繋がり、重さを増しながら滑り落ちていくように、見届け人としての責任と思いが連なっていく。


店を覗くと、父親が近所の奥様方に囲まれていた。

母親の話では、商売の邪魔にならないよう、人の入りが少ない雨の日を狙って、やって来るという。


モテてるなぁ。

考える事は、皆、同じか。

なら、このまま出掛けよう。

行くあてもないので、適当に角を曲がって歩く。


サラリーマンや小さなお財布を手にしたOLが、建物から出て来ている。

もう、お昼の時間なんだな。

財布、持ってきたっけ。

後ろポケットを手で探りながら、視線を一瞬、上に向ける。


視線を下ろすと、露先のその奥に、会釈をしている凪桜さんが見えた。



「こんにちは。」


「こんにちは。」


「雨の中、お散歩ですか?」


「いや、えーと…はい。お散歩です。」


「これからお昼休みなんです。…もし良かったら、どこかでランチしませんか?」


「いいですよ。ちょうどお昼だなぁって、思っていたところです。」


二人で商店街へ向かう。

しばらく歩いていると、鼻歌が聞こえてきた。

ー凪桜さんだ。


「それ、アニメソングでしたっけ?」


「えっ!? 

あっ、歌ってましたかっ、恥ずかしい!」


「はい、かなり大きく…」


「私、ものすごく雨女なんです。

大事な日は、必ずと言っていいほど雨降りで。

だから、雨を楽しむ事にしています。

この傘は、昨日、すごく可愛いのを見つけて買いました。それが嬉しくて、つい…。」


「すごく楽しそうに歌っていましたよ。」


「恥ずかしすぎです…。

でも、彰吾さんに会えた事の方がもっと嬉しくて。

…しかも雨の日に。」


「僕も知らずしらずに図書館の方へ来ていました。…凪桜さん、これから敬語はやめませんか?」


「彰吾さんが先にやめてください。」


「じゃあ、、、ハンバーグ食べたい!」


「そっち!?

ハンバーグの美味しいお店なら、この先だよ。」



ーFinー

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月夜の見届け人 そらと @e_sorato333

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