第17話


彰吾は、隣町の紗季さん親子の家に向かっていた。


お父様の件からご縁が出来て、たまにお話をさせていただいていた。

あれから二人は、明るく楽しげな顔つきになった。 


紗由利さんが着付けの教授をされているのがわかり、是非にと言われ、教わる事にした。


「彰吾さん、こちらへどうぞ。」

「母はあれから体調が随分良くなりました。今では着付け教室も再開出来ました。本当にありがとうございます。」

そう紗季さんは言い、紗由利さんのもとへ案内してくれた。


「彰吾さん、こんにちは。」

「今日はお世話になります。」

「こちらからお願いしたようなものですよ」と紗由利さんは笑う。



「はい、襟元を整えて…腰紐の下からきれいに引っ張って。」

「はい。」

「そうそう。このひと手間で着崩れしないようになりますよ。」

「はい、覚えておきます。」



「あぁ。装束姿、本当に素敵ね。」

「いえいえ、それほどでも…」


そんな話をしていると、紗季さんの声がした。


「先生、凪桜なぎささんが少し早くお着きになって荷物を先に預けたいとの事です。ご案内して宜しいでしょうか。」


「ええ、大丈夫です。」

紗由利さんが答えた。



紗季さんに案内され、一緒に部屋に入って来た女性。

どこかで見たような…と考えていると、答えが出る前に

「薬利彰吾さん!?」とフルネームを呼ばれた。

「えっ!?」

「あっ!えっと、、貸出カードでお名前を…」

「あ、図書館の!エプロンがないと分からないものですね」

「…びっくりしましたっ。」


「あらまぁ、お二人は知り合いなのね!ならば皆でお茶でも飲みましょう!あとは夕方からの生徒さんだけなの。凪桜さんは、お時間は大丈夫かしら?」


「大丈夫ですっ!今日は午後から休みですしっ、こっ…こんな偶然ないですからっっ!!」


「なら、決まりね!装束は汚れちゃうといけないから、着替えてね。」

紗由利さんは、はしゃいでいる。




「若い人がたくさんいるのは、やはり良いわね。」

紗由利さんは、お菓子をテーブルに置き、見渡して言った。

「凪桜さんは、近くの図書館の司書さんなのよね!

それで彰吾さんと知り合いだったのね。」


「はい…知り合いといっても何回かお手伝いした程度ですが。」


彰吾は軽く頷いた。

「図書館に通うようになったのは、割と最近なんです。こちらの……凪桜さんが、親切にしてくださいました。」


「わっ!いえっ、そっ…そんな…。」


「ふふふ。こんな偶然は、何かのご縁と言えるでしょう!」

紗由利さんは、本当に楽しげだ。


「あのっ、ちょっと気になったのですが…さっきの装束は?何かのイベントですか?」


「あらっ。えーっと、彰吾さん…?」

紗由利さんは、慌ててこちらを見た。


「あの装束は、趣味です!」

彰吾は、想定通りに答えた。

これなら、それ以上は突っ込まれないだろうという、彰吾なりの考えだった。


「しゅ…趣味ですか!雅で素敵です!」

凪桜さんは納得してくれたようで、彰吾はほっとした。


凪桜さんのお稽古が始まるというので、お茶会は解散となった。

「また来てね!」

「はい、是非。ではまた。」

紗由利さんは、やっぱり楽しそうだ。

本当に良かった。


家の方向へ歩きながら、月を探してみる。

明日は十六夜か。

また誰かのお役に立てたらいいな。

父親は、強い思いを持っている方が選ばれると言っていたけれど、亡くなったのは8年前や4年前。

どういう事なのだろうか。


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