第3話

言われた通りに風呂に入り丁寧に体を清め、その足で和室に向かう。

障子を引くといつの間にか装束に着替えていた父親が立ち上がった。


「お召し替えのお手伝いを致します。」


少し他人行儀な口調にくすぐったさを覚えながら、促されるままに装束に袖を通していった。



裏庭に向かうと、神主さんが祭壇の最終チェックをし、僕達を待っていた。


「ご立派なお姿ですね。」「では始めましょうか。」と言い直り、鏡の横にある、白い徳利の蓋を持ち上げ、傍らにおいた。


続けて、腰から抜いた笏の上に祝詞を重ねた。深く二礼し、懐に祝詞、腰に笏を収め、右手の指先を左手より少し下げ、二度音を立てずに拍手、そして何かを閉じるかのように両手を揃え合わせ念じ、一礼をした。


初めて聞く祝詞の声は、低音は楽器のように響き、高音は良く澄み、とても心地良く感じた。


父親にならい両手を合わせる。

ふと灯りの脚元に目をやると、猫神様が来ていた。

今までと違うのは、口に何かをくわえている事だった。

ゆっくりこちらに近付いて来る。


僕は、猫神様の歩みに合わせるかのようにゆっくりとしゃがみ込んでいた。


そして猫神様は、僕の前に来ると腰を落として座り、長いしっぽを前脚に軽く絡めた。


猫神様は白い封筒をくわえていた。

思わず父親を見上げると、父親は小さく頷いた。


封筒に手を添えてやると、猫神様は白い封筒を僕に託してきた。

と、同時に消えていった。

とても幻想的だった。

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