第8話

陽が落ちた。

そろそろかもしれない。

そんな気がして彰吾は家の中を見渡す。


廊下に近いところ。そこからゆっくりと歩み寄ってくる猫神様が見えた。


「紗季さん、お母さん、見えますか」視線を外さず話し掛けた。

「はい」「はい」

緊張した二人の声。


猫神様が紗季さんの近くで腰を落とし、優雅にしっぽを前脚に絡めた。

すると猫神様の横に小さなもやが立ち込め、次第に大きくなり、紗季さんにどことなく似た雰囲気の年配男性が現れた。優しく微笑んでいる。


ー彰吾の頭に映像が流れてきた。


赤ちゃんを抱く若い頃の紗由利さん。

高校入学式の紗季さん。

ファインダー越しにポーズする幼い紗季さん。

薬指の指輪を嬉しそうにこちらに向ける紗由利さん。

紗由利さんと手を繋ぐ紗季さん。


ー〈しあわせになれ〉ー

彰吾の頭に直接、言葉が入ってくる。

それと入れ代わるように男性と猫神様は消えていった。


横にいる紗季さんと紗由利さんを見ると、彼女達は涙を浮かべながら何度も頷いていた。


「ありがとうございました。父が望んでいるので、いつまでも落ち込んでいてはダメですね。」


「また会えて良かった。ありがとうございました。」



二人に見送られ、家に戻った彰吾は、父親に声を掛ける。

「父さん、薬利家の力ってすごいね!」

「うまくいったのだね。良かった。今の気持ちを持ち続けなさい。」

「はい。風呂に入ってきます。」


彰吾は幸せな気持ちで過ごし、眠りについた。








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