第11話

この駅に降りたのは、いつぶりだろう。

彰吾は記憶を辿る。


母親にねだられて、梅の花を見に来た時だったはずだ。

完全に僕はそのあとのランチ目当てだったが、息子とのお出掛けに母親はとても喜んでいたので、孝行出来たのだと思う。


彰吾は地図を手に、その住所を探し始めた。

その家は、駅から少し離れた閑静な住宅街にあった。

インターフォンを鳴らす。


「はい。」


「あの、薬利彰吾と申しますが、猫神様の件で参りました。」


一瞬の間があり、「…どうぞ」と女性の声がし、玄関から女性が現れた。


女性に応接室に案内されると、もう1人、年配女性の姿があった。

お茶を運んで来た女性が、年配女性の隣に座る。


そして口々に話し出す。


「昨夜、私達の目の前に猫…猫神様が現れました。」

「私達、何かの気配がする事には数日前から気付いていたのよね。それで、やっと昨夜に猫神様とわかったの。」


「次に頭に言葉が入ってきたの。

″明日、訪れし者に心を打ち明けよ″って。

何だったのかと2人で話していたら、あなたが現れたの。」


「はい。どうぞ続けてください。」


「実は、孫の彩海あやみが4年前に亡くなりました。

私と息子夫婦と彩海の4人で別荘へ避暑に行って、私達が目を話した隙に1人で海に入ったのね…。

近隣の監視カメラに偶然に映っていて、事件性のない事は確認されました。

大きな波に足をさらわれたのでしょう。」


「遊ぶ時は、しっかり足で歩ける高さまでと教えていたのですが…今でも彩海あやみを忘れた事などありません。私達は悔やんでも悔やみきれず最悪な事も考えました。」


「お辛かったですね。猫神様は、明日の夕方にお出ましになるはずです。その時は、どうぞご主人様もご一緒に。」


ちゃんと会わせてあげたい。

彰吾はそう思った。




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