第10話

庭に準備されている篝火かがりびを見ながら、

彰吾は、子供の頃からの謎がやっと解けた、と感じた。

母親や父親に篝火かがりびの意味を尋ねた事もあったが、いま思うと、上手にはぐらかされていた事になる。


今日は十六夜いざよい

猫神様は現れるだろうか。  



宵を迎える前に丁寧に体を清め、装束に袖を通す。


「着かたを勉強したのか。でももう少しだな。まぁ、そのうちに慣れるさ。」

父親はそう言い、手直しをしてくれた。


篝火かがりびに火が灯り、いよいよ夜の気配が濃くなる。


「そろそろ行こうか。」と父親が立ち上がり、彰吾を裏庭に促した。


父親にならい彰吾も両手を合わせる。


しばらくそうしていると、篝火かがりびが強く揺れた。視線を下げると、灯りの脚元には猫神様のお姿があった。

白い封筒をくわえている。


彰吾の近くで腰を落とし、優雅にしっぽを前脚に絡める。


本当に美しいお姿をされているな。


同じように封筒に手を添え、彰吾はそれを受け取った。


書かれていた住所は、2つ先の駅のものだった。





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