悲しみの果てに
◆◆◆
―光の城―
「レイクとアンネはまだ見つからぬのか!!!!」
王は苛立ちながら玉座の前を行ったり来たりしている。
「はっ。誠に申し訳ございません。今頃、城の兵士たちが影の空間に到着している頃かと思われます。」
びくびくと体を震わせながら、兵士が頭を下げて伝えた。
「まったく、モタモタしおって…。おそらく、2人はそれぞれ別の場所におるじゃろう。一緒にいたければ、ここにいればいいだけの話じゃ。レイクの気が全く感じられぬのは、おそらくあやつ本人の魔法によるもの。しかし、アンネの気が感じられぬ。あやつにはそんな魔法はつかえぬはずじゃ。何者かがアンネの気配をけしよったのじゃろう。あやつは影の空間に興味を示しておったのう。おそらく、アンネとおるのは影の者…。そやつがアンネの気配を消しておるのじゃろう。誰か一定の能力を持った魔法ないし魔術の使い手と一緒にいる…そう考えてまず間違いないじゃろう。」
「はっ。光の聖域において魔法検定準2級以上を取得している魔法使いを全てリストアップし、捜査対象とさせていただきます。」
「光の聖域だけではないといっておる。影の空間の魔術師も対象だ!」
「はっ…しかし、影の空間には検定や資格などはございません。怪しい者を片っ端から潰していくしか…」
「それでよい。影の民の命などどうでもよい。もはやアンネも同様じゃ。どうせあやつの魔法力など知れておる。レイクを探せ!!!レイクが戻り次第、影の空間への
「はっ…?
「なぜわからぬ。影の空間に攻め入るのじゃ。アンネが影の空間に興味を示しおった。あやつが万が一、影の空間で
「で…ですが王様、光と影の法律は……」
「ええい!!そんなものはどうでもよい!!!わしの顔に泥を塗ったアンネを許しては置けぬ!!!影の空間など、わしの力で潰してくれるわ!!!!」
王の背後の巨大なステンドグラスの壁面。その全体を埋め尽くすように巨大な怪物の亡霊の首がぬうっと姿を現し、裂けるような大きな口を三日月のように広げた。
◆◆◆
―
レイクとメドゥーが出会った草むらの近くの岩場。
「………ジル………」
「…ジル………」
うなされながら、何度も愛する人の名を口にする少女の寝顔を見ながら、レイクは愛おしさと切なさを感じていた。
「ふっ……残念ながら、僕じゃ力不足みたいだね……キミを捨てて行ったというのに、こんなに愛されているジル君が羨ましいよ。」
レイクは魔法の解けてきたメドゥーに改めてそっと手をかざす。
「キミの傷ついた心が癒えますように。」
メドゥーの周りを柔らかい光が取り巻き、寝言を言っていたメドゥーの表情が和らいですーすーと静かな寝息に変わった。
―その時。草むらの奥からガサゴソと音がして、野太い声が響いた。
「いたぞ!!!こっちだ!!!」
ザザッと大きな足音とともに、暗闇の中に数人の光の兵士の姿が見えた。レイクは目つきを鋭くし、背負っていた長剣を取り出して構えた。
「城からの追手だな。どうしてここがわかった?」
茂みの中から大剣を手にした兵士長が顔を出した。
「レイク、こんなところでなにをしている。
「僕はもう城には戻らない。守る人ができたんだ。」
レイクは大きく後ろに手を広げ、洞窟へ向かう道を塞いだ。
「あの女は何者だ。随分と強い魔力を感じるが。」
「あぁ。素性は知らないが、おそらく
「そうか…。……ならば、その女も連れて城へ戻れ。」
「…何…!?どういうつもりだ!?」
レイクは不信感をあらわにした。
「陛下はアンネよりもお前の戻りをお待ちかねだ。レイクが戻るのであれば、あの女1人
「し…城中が…僕を…???」
「そうだ。お前は皆に必要とされている。陛下が待っているのはアンネではない。お前だ。その女を連れて、すぐに戻れ。その女も魔術の力がある。城で魔法庁に仕えればよいだけだ。女との暮らしも保証してやる。どうだ?悪い条件ではないはずだ。」
―…必要…と…されている…―
レイクの脳内でその一文が反響した。
手から力が抜け、剣が地面へと落ちる。
―…城中の…みんなが…―
「聞いているか?陛下がお待ちかねだ。早くしろ。」
レイクはゆっくりとメドゥーを抱きかかえると、兵士長一団の後について城へと向かった。
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