深夜のこと

―ジル…―




   ―ジル??…―





 「…ん??…」


 ふと目を覚ますとあたりは真っ暗だった。しんと静まり返った部屋の中で、シングルの毛布にくるまった2人。後ろからジルに抱きついているメドゥーがジルにささやきかける。




 「ねぇ、今日あたしが勝ったらなんでもしてくれるっていったでしょ?」


 「え…??あぁ、言ったかも。」


 「ジルが勝ったから、あたし、ジルのしたいこと、なんでもしてあげる…」


 メドゥーは照れたような声でジルの背中に頭をすりすりしている。



 「……」

 ジルはごくりと唾を飲んだ。




 「ねぇ、あたし達がはじめてキスした日のこと、覚えてる…?」


 「あぁ…汚ねぇ路地裏でな…”してみよっか”って、したんだっけな。」


 「ジル、こっち向いて…ねぇ、あたしを好きにしていいのよ…」




 ジルが振り返ると、メドゥーはとろけるような目つきでその頬に手を伸ばす。







 静かな部屋にいやらしい音と吐息が響き渡る。


 「…んっ………はぁ…ジル…愛してるわ…」





 「もっと…強く…もっと…激しくしていいのよ…あっ……そう…気持ちいい…」


 






◆◆◆





―はっ!!!!―





 ジルはかけていた毛布を振り払って飛び起きた。


 隣には寝た時と変わらずに背を向けているメドゥーの姿がある。ジルは下に目をやって、”夢”だったことを確信すると、大きくため息をついた。




 「…マジか…くそっ…俺の負けだ…完全に…」





◆◆◆




朝5時。




 影の森シャドー・フォレストから聞こえるフクロウの鳴き声に目を覚ましたのか、メドゥーは起き上がってジルに声をかける。




 「おはよ、ジル。」




 「……ぉはょ………」


 ジルも起き上がり、目を合わさずに毛布をたたみながら答える。


 「あら、今日はいつもにも増して顔色が悪いじゃない、どうしたの?」

 メドゥーはやけに楽しそうだ。


 「別に…」


 「あっ、さてはあたしが横にいたから一睡いっすいもできなかったのね?」

 メドゥーはニヤニヤしながらジルに顔を近づける。


 「いや、寝たし…」


 「嘘ばっかり。夜中、1人でモゾモゾしてたの知ってるんだから。」

 メドゥーは親指を軽くくわえてたのしげに笑っている。


 「くっそ…ホントにおまえってやつは…」

 苛立ってかすかに紫の光をまとったジルは、勢いよくメドゥーの悪魔のような尻尾の先端をぎゅっとつかんだ。


 「きゃっ!!ジル、そ…そこはダメっ…お願い、やめて…」


 偉そうにしていたメドゥーがへろへろと力を失って倒れこんだ。ジルは構わずに尻尾の先端をくにくにと指で押しつぶす。


 「お前の弱点など知り尽くしているわ。白状しろ、昨日俺にかけた”のろい”の正体はなんだ?【いやらしい夢を見る術】か??」


 「違うわ…ねぇ、教えるからやめて…」


 「いやだね。早くのろいを解除しろ。解除するまでやめねぇからな。」


 「…わ…わかった…教えるわ…でも”呪い”だなんて失礼よ…魔法よ、愛の魔法♥【メドゥーちゃんのことが頭から離れなくなっちゃう術】。でも、ごめんね、かけてから10時間は解除できないの…」


 「なんだとっ!?」


 ジルは時計を見る。昨日帰ったのは10時過ぎだったはず。あと数時間は解除できないようだ。



 ―…ジル♥愛してるわ…―

―メドゥー…♥オレもさ…さっきのが夢じゃなければな…―

 ―いいのよ、あなたが今からホンモノにしてくれれば…―

―ほら、おいで、子猫ちゃん…快楽の海に沈めてあげる…―


 「ありありとえるわ…ジルの頭の中が…うふふ♥ジルのエッチ…」

 メドゥーは嬉しそうにジルに抱きついた。

 

 「うぁあぁああああー!!!!ちくしょう!!やめろ!!!!オレのじゃない!!メドゥーの妄想だろこれ!!!!!ふざけんな!!」

 脳内に流れるいやらしい映像に、ジルは頭を抱えて家の中を走り回る。



 「…バクを買ってくる!!!」

 ジルは小さな小銭入れを片手に、慌てて家を飛び出していった。


 メドゥーがゲラゲラと笑い転げていると、あきれたローズが起きてきた。


 「なんなのあんた達、朝っぱらからうるさいわねぇ。」


 


 

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