ジルの家

 ジルが失神したメドゥーを背負って町に向かうと、夜だというのに狭い道路は野次馬でごった返していた。


 「ジル!!!なんだ、お前達だったのか。すげぇ爆音だったな…」

 「あっ!おい、ジルお前…俺のメドゥー様を!!畜生ちくしょう!!」

 「あらあら、またアンタ達かい。懲りないねぇ。」

 「ジル様!!…あたしも失神させて…」

 「さっきの地震、ジルさまの”まじゅつ”だったの!?」


 みんなが思い思いに声をかけながら尾ひれのようにジルの後をついてくる。


 「…悪いがけてくれないか?少し疲れたんだ…」

 ジルは静かに結界を張る。その色がジルのカラーである紫ではなく灰色だったので、町の人々は名残り惜しそうにぶつぶつと文句を言いながらおとなしく家へ戻っていった。


 石畳の向こうにほのかな明かりがともされている。スティーブが家の外でランタンを持って待っていた。

 「先ほどの強大なお力…やはりジル様でしたか…一段と成長しておられるようですね。メドゥー様は私が治癒ちゆいたしましょう。」

 「悪いね、スティーブ。久々の戦いで興奮してしまって…」

 スティーブはジルの背中にぴったりとくっついた柔らかそうな場所に目をやった。

 「…”戦いで”…ですか…?」

 「は!?」

 「…いえ…ゴホン…」


―カランコロン―


 小さな鐘の音とともに家の中へ入ると、ローズは4人分の夕食を作って待っていた。

 「あぁ、やっぱり一緒だったのね。外がすごいことになってたから、あんた達かと思ったわよ。せっかく光の聖域にいけるようになったというのに、結局2人で一緒にいたのかい。あんた達は本当に仲がいいのね。」

 「いや、お互いに光の聖域には行ってきたよ。たまたま帰りに会っただけさ。」


 ジルは力の抜けたメドゥーを薄い毛布の上に寝かせた。



 ―傷だらけ…可哀想…痛くない??―



 ふとアンネの言葉が頭をよぎった。戦いはジルとメドゥーにとって小さいころから”遊び"のひとつだった。

 …そのはずだったのだが、なんだかジルは妙な気分になって、静かに上下するメドゥーの背中にそっと手を当てた。


 ふうっと温かい感触とともに、クリーム色の光がジルの手を包んだ。


 「…!???」


 ジルは慌てて手を引くとその手を体にこすりつけた。


 (なんだ…!?今のへんな光…)


 奥の部屋からへこんだアルミの洗面器を持ってきたスティーブがタオルをそのお湯につけて絞る。

 「ジル様。どうなさいました?戦いのあとにしては元気がありませんね。」

 「いや…なんかオレ、ちょっと疲れてるのかも…」


 スティーブは温かいタオルでメドゥーの身体についた砂を落とし、手が触れない程度の距離感でそっとメドゥーの傷の上に何度も何度も優しく手をかざす。柔らかい光がメドゥーの身体を包み込むと、少しづつその傷は塞がり、綺麗な肌に戻っていった。


 ジルはその光景を眺めて後ずさった。

 「マジかよ。…光の魔法ってのはすっげぇな。これさえあれば死なずに、いつでも、いくらでも、好きなだけ戦うことができるじゃないか!スティーブ、この魔法、俺にも教えてくれ!!」


 スティーブは困った顔をしてジルの方を見た。




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