第1章 価値観の違い

光のヒト

 広い庭園の砂利道を散策する音がする。一人の少年が少女に近づいた。後ろで束ねたクリーム色の長髪に、透けるような白い肌。すらっとした長身の少年は少女のすぐそばに来てしゃがみ込んだ。


 「やぁ、アンネ。今日も素敵だね。」


 そう言ってにっこり微笑んだ少年は四つ葉のクローバーをアンネに差し出す。


 「まぁ、レイク様ってば…(ぽっ)…」


 レイクの輝くような笑顔にアンネは顔を赤らめた。


 レイクはアンネの幼馴染だ。オリーヴィア光魔法学園に入学したとき、レイクは4年生だった。一人っ子だった幼いアンネを妹のように可愛がってくれていた。面倒見のいいレイクのことをアンネは慕っていたし、レイクもそんなアンネを放っておけないと思っていた。


「アンネ、今日は君の誕生日だったよね?」


「ええ、覚えていて下さったのね。嬉しいわ。」


「僕はそれを嬉しく思う反面、これからはアンネと離れていかなければならないと思うと、とても寂しいよ…」

 

 レイクは切なげに庭の花壇に目をやった。


「レイク…あなたはもう、影のヒトと出会っているの?」


 アンネはそっと手を伸ばしてレイクの細い指先に触れた。


「あぁ…夕刻になると毎日色々な”影のヒト”が僕のところにやってくる…。でもどのも違うんだ…どうして…どうして光のヒト同士で結ばれてはいけないのだろう…」


 レイクはアンネをしばし見つめた後、目を閉じてため息をついた。


「今日からはアンネのところにも影のヒトがやってくるだろう…彼らはきっとアンネを騙そうとする。甘い言葉を囁き、悪の道に誘導しようとするはずだ…」


「レイク…どうしてそんな酷いことをいうの?影のヒトの中にだって、いい人はいるかもしれないわ…」


「僕のところにくる”影のヒト”は皆そういうなんだ…あんな連中を信じてはいけない。光のヒトは、光の聖域の中で生きるべきだ。僕はそう思う。光と影は、決して交じり合うことなんてないし、交じり合ってはいけない。」


「そう…レイクはそう思うのね…」


「僕は日々成長していくアンネを見ていると胸が苦しくなるんだ…アンネがあんな影の連中にさらわれていなくなってしまうなんて、僕には考えられないんだよ…」


「大丈夫よ、レイク。影のヒトはきっとそんなに悪い人じゃないわ。あなたも、お父様やお母様の話を真に受けすぎなのよ。先生やお父様達の話している【光と影の対戦】はもう200年も昔の話よ。あれから私たちは変わった。影のヒトだって変わっているはずよ。」


「いいや、変わってなんかない…影のは僕らの光の聖域を狙い、再び乗っ取ろうとしているんだ…」

レイクの表情が険しくなった。


「レイク、どうしたの?怖い事ばかり言って、あなたらしくないわ。」


 アンネはレイクの震える肩にそっと手を伸ばした。



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