愛されたい2人

 ―深夜―


 寝静まった王の寝室から抜け出たレイクは扉を閉めるとともに、き物を落とすように体中を手で払った。


 嘔吐えずく身体を両手で抱えながら、すぅはぁと細く長い息をして渡り廊下の真ん中からテラスへ出る。


 昨日の晴れやかな空とはうって変わって、只ならぬ重苦しい雲が空を包んでおり、今にも大雨が降りだしそうだ。



 うたげでのアンネの退屈そうな表情。

 アンネの気持ちが自分に向いていないことはわかっている。

 好奇心旺盛な彼女はいつも影世界シャドーについて語り、16歳になりその世界を見る日を心待ちにしていた。最近は話しかけてもうわの空で、の本などを読みあさっている姿が目に付いた。




 ビルデはである自分に価値を見出している。


 としての自分に。


 として存在しうる自分に。





 ―は、誰からも愛されていない―





 ふと見上げた空の彼方の森に、レイクは自分と同じ悲しみの色を見た。

 


◆◆◆



 影の森シャドー・フォレストの奥深く。



 降り出した強い雨に打たれ、全身ずぶ濡れになった少女が草むらに立ちつくし、顔を赤らめてぽわんと放心している。1人の青年がそこに近づいた。


 「美しいお嬢さん、こんな物騒ぶっそうなところで、一体どうされたんです?」

 少女はトロンとした目つきで青年を見る。


 「……え……ジル?………きてくれたの??」


 少女の目は青年を見ているようで見ていない。焦点の合わないその瞳を興味深く覗き込み、青年は続けた。


 「………そう。ジルだよ。」


 「ジル…!!!よかった。嬉しい…」 

 メドゥーは青年の肩に手を回して抱きつき、厚い胸板に顔を摺り寄せた。


 「ジル…。…ジル…。もうどこにも行かないで。ずっとあたしと一緒にいて??」


 メドゥーは目を閉じ、キスを求める。



 (幻覚魔法か…??それも、内と外の色が同じ…これは…)



 青年は顔中に不快感を示し、素早く右手を広げた。彼女の心の中にいる、影の少年ジルの姿を見ると、ぎ取るようにそれを掴みとる。瞬間、まばゆい光が辺り一帯を照らし、ハッと我に返ったメドゥーはキョロキョロと周囲を見渡した。


 「…ん?……あれ…???」


 「やぁ、お嬢さん。お久しぶり。レイクの事、覚えているだろう?」

 「…あ……」


 メドゥーは彼の顔に見覚えがあった。光の聖域で珍しく、自分の挑発にのってこなかったクールな青年だ。


 「…あぁ、あの時の………なんであなたがここに??」

 メドゥーは怪訝けげんな顔をしてレイクを見る。


 「…ふふ…そんなに怖い顔をしないでくれ。あの時は悪かったよ。光の聖域では、影のヒトとになるなんて、夢のような出来事だからね…君のあまりの妖艶ようえんさに、僕はつい、恥ずかしくなって、本心を隠してしまったんだ…」


 「…え…!??」

 メドゥーは驚いて赤面した。




  ―お近づき―



 その言葉は影から光に対してのみ使用されるものだった。光世界ライトでそんなセリフを口にする人物がスティーブ以外にいるなんて、メドゥーは思ってもみなかった。



 「本当は、僕は君の美しさに心を奪われ、君のとりこになってしまった。だから僕は今日、君を探して影世界シャドーへやってきた。」

 

 「どうして…あたしの居場所が分かったの??」



 「簡単さ。君のその強い魔力。そして激しい色気がこの森から発せられていた。僕には君の放つ色が見えるんだ。そして、君の背負っている悲しみも見える。」





 レイクは切なげに目を細め、メドゥーの肩に手を置いた。

 「君のことをこんなに苦しめているのは、誰なんだ?」




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