出会い
影の空間から光の聖域に入っていくと、薄茶色の小石ばかりだった殺風景が、見渡す限り綺麗な緑の芝に変わっていく。
(おぉ…スティーブに聞いていた通りだ。本当に別世界だな…)
城下町の活気づいた光景が目に入る。行きかう人々は笑顔で会話をし、物々交換を行っている。様々な食材が交じり合ったその香ばしい匂いがジルのお腹を空かせた。軒先に並べられた豚の丸焼きに目を奪われて立ち止まっていると、次第に周囲の人が遠ざかって行った。
「あら、”影のヒト”よ…」
「いやだわ、恐ろしい…」
小声で光のヒトが
「冷やかしはお断りだ。営業妨害だからさっさとあっちへいってくれ。”パト”を呼ぶぞ。」
「なんだよ。売り物を見ることすら許されないのか。こっちのほうがよっぽど酷い世界だな。」
ジルは
つまり、スティーブは故郷である光の聖域を捨てて、ジルの
だからこそ、ジルはここへやってきた。このような視線を向けられたりそうした態度を取られることも想定済みだったので、さほど腹も立たないし、迷いもない。そもそも影の空間の住人はガラも口も悪い連中が多いので、他人の悪口や陰口などいちいち気に留めるようなものではないのだ。
丘に近づいていくと、少女は庭園のベンチでゆったりと猫を
―ずっとずっと遠くから見てきた少女が今、目の前にいる。―
「…隣…座ってもいい??」
ジルは髪をかき上げながらベンチに腰掛けた。
「キャッ!…あ、ごめんなさ…」
急に話しかけられた少女は一瞬驚いたような顔をしたが、ジルの姿を見るとすぐに顔色を変えた。
「…大変!!あなた、とっても顔色が悪いわ!!お熱があるんじゃないかしら…まぁ!お怪我まで!!すぐに戻ってくるから、ちょっとそこに横になって、待ってて…」
そういって少女は家の方に向かって走り出した。
「…え…?」
ジルは
戻ってきた少女は救急箱を抱えていた。言われるままにベンチに横になっていたジルの頭を自分の膝に乗せると、少女はジルのシャツのボタンを上から2つほどはずし、脇に体温計を差し込んだ。
「どこでこんなお怪我したの?体中が傷だらけじゃない…可哀想に…今手当てしてあげるからね…」
そう言いながら少女はジルの鎖骨あたりの古傷をそっと撫で、最近ついたと思われる傷を消毒するとガーゼをあてがった。
「…?????」
ジルには彼女の行動がまったく理解できない。
(あれ…おかしいな…なんか調子狂う…どうなっているんだ???)
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