第36話
「都内35か所および外国人グループの拠点5か所の計40か所の一斉摘発を行う」
神籬内のネットワークで全国58支部の支部長と本部の人間、あと全国各支部の実力者数十人が一堂に会した会議をWeb上で開いている。
今回は摘発する規模が大きく、ダンジョン庁特捜部や警察の力を借りても東京の面子だけではカバーしきれない規模だった。
決行は
一郎は、この個人ダンジョン違法事件において、密輸、犯行を計画した外国人グループの主要拠点への配置が上層部の判断ですでに決まっていた。この一斉摘発には札幌支部の斉藤大介や大阪堺支部の
「2点報告があります」
コードネーム三七鹿。普段、佐々木と呼ばれている分析班のメンバーから全体会議が終わった直後に個別回線で報告を受けた。
「1点目は、例の仁科華についてです」
仁科華。飯塚楼の手で完全に引導を渡した中学1年生は転校することなく亜理紗と同じ中学に再び通い出した。だが、あれほどの事件を起こしたので、周囲は放っておかないだろう。耐えきれずにすぐに転校すると思っていたが、どうもそうではないらしいと聞いていた。
仁科華が朝夕の登下校中に亜理紗を尾行しているとのこと。それも薄々、神籬の監視役に気が付いている動きが見られるという。そこで今日から通常の警戒レベルを一段階あげて二重監視を行い、万全を期しているとの報告だった。
2点目は、娘の亜理紗が今回の摘発対象である内のひとつの子役グループに接触した事後の件について……。一昨日夕方に子役グループと偶発的に接触したのは聞いていた。違法ダンジョンを友人も含めて、購入したりはしていなかったと報告を受けていたので安心していたのだが……。
「どうやらその子役がダンジョンで違法な暴力と性的搾取をテーマにした動画を撮影しようと企んでいるらしいです」
「あっ?」
いかん。つい、感情が出てしまった。
国家機関の人間としてあるまじき発言に悔いてしまう一郎だが、すぐに感情を切り替える。
「それで具体の内容は?」
「明日19時からDゲームと称してご令嬢と友人がそのゲームに騙されて参加する予定だというところまで掴んでいます」
なるほど、それで亜理紗が明日、AI人格『オメガQ7213』を貸してほしいとしつこくお願いしていたのか……。しばらくは捜査で使用するかもしれないので断っていたのだが……。
「このことを上には?」
「まだ報告していません」
「報告しておいてください、そして私をそのグループ摘発に回すように、と」
佐々木は「わかりました」と了解の意思を表示して通信を切断した。それにしても亜理紗がそんな危ないことに巻き込まれそうになるなんて予想もしていなかった。
今すぐ乗り込んでその子役の連中を壊滅してやりたいが、連中は相当な数で動いている。私情で動いて連中の警戒が強まったら作戦成功率に影響が出てしまう。作戦が失敗してしまったら、より多くの若者の犠牲者が出てしまうことになるため、ここは一郎自身も冷静な対応をするべきだと自分を説得した。ちょうど時間的には19時にゲームを開始するという。一斉摘発は20時に開始するので、亜理紗にその間にもしものことがないように保険を掛けておくことにした。
「お父さんいいの?」
「うん、明日だけなら大丈夫」
もう寝る支度をしていた亜理紗の部屋をノックして、AI人格を貸すことを約束した。
翌日の朝、佐々木から再度連絡があり、一郎の摘発場所を変えることについて、本部の上層部に承認をもらったことの連絡を受けて彼に礼を伝えた。
一郎が配属される予定だった箇所は外国人グループの拠点であるため、激しい抵抗が予想される。そこで本部は期待のルーキー、沖縄支部の成底凪を充てることにしたそうなのでホッとした。彼女ならどんな場所でも十分に力を発揮してくれるだろう。それに彼女の相棒である黒人のジェームス・シェイカーは分析力や情報技術戦では神籬内でも結構、名が知られている。セットで配置されるだろうから、心配な点はなにひとつない。
だが、その後、飯塚楼から届いた報せで急に雲行きが怪しくなった。
「仁科華が
仁科華の失踪……。
彼女は昨夜から都内中のカメラで追えなくなったそうだ。
事件に巻き込まれたかあるいは……。
いくら娘をひどい目に遭わせたと言っても、一郎も親であり、一人の人間である。けっして仁科華にこれ以上の罰や死を望んだりしない。亜理紗に二度と近づかないでくれたらそれでよかった。
もう一つの件はとても厄介な話。
飯塚楼の人生を狂わせた張本人であり、ただの観光が目的で訪日したわけではないはず。世界を巻き込む途轍もないことを日本で始める気じゃないかと心配でたまらない。
成田空港で降りて、現在、東京都心へ向けて移動中とのこと。
カメラの分析によると仲間が少なくとも10人以上はいるらしく、全員バラバラに行動しているが、飯塚楼の監視の目からは逃れられない。引き続き動向を注視しているとのことだった。
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