第7話
「さてと……」
田中一郎は、傲萬製薬の不正ダンジョンの事件で捜査線上に浮上した
尾行外しと機器チェックを複数行ってようやく清掃会社ラビキンへと戻った。飯塚は近づいてきた田中のチェックを外したのか、これといった問題は生じなかった。清掃会社の一室で飯塚の盗聴を続けていた田中だが、ひとつ問題が発生した。事件の方ではなく家庭の方において……。
娘が1時間後に友人4人を連れて家に遊びにくる。
それもその内のふたりが男。
どうやらダンジョンを一緒にプレイしようという話のようだが、妻は今日、午後から出勤すると聞いていた。家には誰もいない。
ダンジョンに潜るにしても部屋で遊ぶにしても、心配でたまらない。
田中は速やかに自宅へ戻り、娘の友人たちをもてなす準備を始めた。
ほどなくして娘と友人一行が家に到着した。
親友の麗音は小学校に入る前からご近所なのでよく知っている。問題は他の3人。この2日で3人の情報を調査班に依頼を出しておいたので、ある程度は把握できている。
まず
次にもう一人の男子
そして最後にもっとも丹念に調査をお願いした少女、仁科華。
前回のダンジョン配信の公開設定は故意によるものだと一郎はみている。
彼女の家庭環境だけ少し特殊で、この住んでいる街でずいぶんと名の知れた名士の家系。両親はこの街の大地主で、叔父は警視庁幹部、叔母は都議を二期続けていて、彼女自身、人生に何不自由なく生まれ育ったようだ。
そんな彼女には、小学校からある黒い噂がつき纏っている。
仁科華の小学校では、不登校や転校した子どもの割合が都内の他の小学校と比較して10倍近くも高く、いじめが原因だが、仁科華自身の名は一切出てこない。だが、彼女が配属された小学1年から6年までのクラスだけが異常に転校や不登校が高い傾向にあることからほぼ黒だと見て間違いない。
亜理紗は運動神経も人並み外れていて、勉強もできる。まわりへの配慮も大人の視点から見てもなんら見劣りする点は見受けられない。
一方で、仁科 華は運動神経もそれなりで成績も上位の方だが、亜理紗の方が一段上。もしかすると嫉妬が原因で亜理紗を狙いに定めたのかもしれない。
限りなく黒に近いが、完全に黒とは断定できない。
そこで田中一郎は、ダンジョンに潜る場合は、仁科華の本性を突き止めるべく、準備に余念がなかった。
5人とも緑茶を飲んだ。
緑茶の中には、ダンジョンで5人の居場所がわかる視認できないほどの微小なサイズのナノマシンを混入させておいた。
位置情報がわかる他、こちらがいろいろと干渉しやすいようにさせてもらった。
5人がダンジョンへ潜ると一郎は、バックドアでダンジョンの中へと入る。鉢合わせにならないように少し離れたところから彼女らの状況を確認する。
「亜理紗ちゃん、ステータス低いね」
「うん、エリア1でただ遊んでいるだけだから……」
仁科華は、さっそく亜理紗の弱点に気が付いた。
エリア1の白銀兎をライブ配信を各々したところで、ある提案をし出した。
「どんどん進んじゃおうよ!」
「でも亜理紗と麗音のステータスが低いからな」
麗音もダンジョンは持っているものの、あまりこれまで攻略はしてこなかったようだ。ダンジョンの序盤中の序盤、エリア1でどちらかと言うと風景を楽しんだり、異世界の風景を楽しむために潜っていたみたい。
鬨人がふたりを気遣って意見するものの華はここで視聴者を巧みに味方につけた。
「えーせっかく、貴重な白銀兎がいるのに、他にもレアな魔物がいるんじゃないかなー?」
名無し
:見たくなくもなくはない
名無し
:アラやだ! 素直じゃないのね
名無し
:行って欲しいに1票w
「これは行かないと視聴者に失礼じゃね?」
雷汰が話に加わると視聴者も悪乗りしだした。
名無し
:ライダ少年のパリピ感好きw
名無し
:こんなん俺だったら、どこまでも潜るわ
名無し
:ごちゃごちゃ言わんと早く潜るwww
断りづらい雰囲気。
亜理紗は麗音と視線を合わせて止むを得ないと腹をくくった。
ダンジョンのエリアというのは、いくつかパターンがあり、亜理紗が父一郎に買ってもらった個人ダンジョンは六角形タイプだった。六角形タイプと言うのはエリア1を中心に六角形で仕切られていて、外縁に向かうほどエリアが増えていく。
エリアの大きさは決まっており、エリア1が1ブロックとすると、エリア2は6ブロック、エリア3は12ブロックとどんどんエリアが広くなっていく。
またエリアごとにエリアボスがいる。
エリア2へ行くためにどうしても倒さないと次のエリアに進めないわけではないのだが……。今回は、たまたま遭遇しただけに過ぎない。森の中からエリアボスをこっそり確認する。
エリアボスの頭上には赤い剣のマークがあるので、間違いない。
人間に姿は近いが、化け物の類。
人間の子どもくらいの身長しかなく、禿頭で小太り。
目は黒目の部分がとても小さく不気味としか言いようがない。
口元は吊り上がっており、一見笑っているようにも見える。だが、唇の隙間から時折、蛇のような細長くて先が割れた舌が見え隠れしている。
逃げるという選択肢もあるのだが……。
「当たりじゃん! もーらいっ」
雷汰の嬉しそうな声。
「おい、やめろって」
鬨人が呼びかけたが、遅かった。
周りがドーム状の結界に包まれ、脱出が不可能となる。
ドーム状の結界を解除する条件はボスを倒すか、こちらが全滅するかのどちらかのみ……。
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