第8話


「どう見ても雑魚じゃん!」

「エリアボスに雑魚なんているわけないだろ!?」


 雷汰がアイテムを独り占めしようとエリアボスに突撃する。

 ダンジョンではエリアボス討伐特典があり、一番ダメージを与えた者にその特典が与えられる。

 鬨人が警告したが、無視して小さなエリアボスに大鎚を振り下ろそうと近づいていく。


 グシャ、と肉と骨を砕く音がすると、小さな化け物の頭があっけなく潰れた。


 ただの雑魚キャラだった? 

 あまりにも弱すぎる。


「まあ、俺にかかればこんなモンだし!?」

「うしろをよく見ろ!」

「きゃぁあああああッ!」


 鬨人の声に反応して、振り返った雷太は巨大な拳に頭を砕かれた。

 膝をついて、そのまま前に崩れ落ちる。


 ダンジョン配信アプリ「Stream Of Dungeon」上で配信を視聴している人達にはこういったセンシティブな部分は自動でモザイクがかかるので、配信事故にはならない。だが、いくらセーブ地点から復活できるとしても間近で見るとトラウマになってしまいそう。


 頭が潰れているのに平然と立っている化け物。

 右腕の前腕部だけが数十倍に膨れ上がっている。その腕の皮膚がボコボコと無数の突起が生まれ、皮膚を引き裂くと小型犬くらいの大きさの蜘蛛が大量に出てきて亜理紗たちへ迫る。


「【聖鎧リヒム】!」


 華が魔法を唱えると全身を白く光り輝く鎧で身を包んだ。


「亜理紗、麗音! ふたりとも俺のうしろに下がれ!?」


 鬨人がそう叫びながら小瓶を周囲にばら撒くと、爆発するように炎が噴きあがる。


「くそっ数が違い過ぎる!」


 炎の柱の間を抜けて侵入してくる蜘蛛を剣で刻みながら鬨人が呻くようにつぶやく。


 麗音は腰の両側に提げている矢を精度を無視して速射を心がけて前に射っているが、10本中1本くらい蜘蛛に当たるかどうか。亜理紗は短剣しか持っておらずステータスも低いので1匹仕留めるのがやっとだった。アイテムで生み出した炎の柱の勢いが徐々に失われていく。炎の柱が壁となっていたが、消えてしまったらもう防ぎようがない。

 

 華の方を見ると、白く光る鎧に触れた蜘蛛はバチッと電撃を受けて次々と弾いており、ひとりだけ平気そう。


 名無し

 :あのエリアボス……【白狒パピオム】だよ

 名無し

 :アカン奴きたwww

 名無し

 :普通にゲームオーバーやろ?


 かなり手強いボスだと視聴者が教えてくれる。


「おい、華! 突っ立ってないでこっちを手伝えよ」

「ゴメーン、今、自分の身を守るのが精いっぱいで」


 鬨人が仁科華へ呼びかけるが、彼女はヨロヨロとひとりだけ後ろへ下がっていく

 炎の柱を避けるため、少し迂回する形だが、よろけている割には足取りがしっかりしている。


 自分だけ助かろうとしている?

 あのエリアボスは尋常ではないのは見てわかる。

 でも、逃げてもどうせ結界で外には出られない。

 ここは力を合わせてエリアボスに立ち向かわなければならないのに……。


 だが、華の行動は裏目に出てしまった。

 ゴスッと鈍い音が聞こえると視界の隅に黒い影が通過していった。


 仁科華が化け物に殴られて吹き飛ばされた。

 後ろにある木に背中を打って地面に転がった。

 魔法の鎧のお陰で即死は避けられたようだが、もう立ち上がる力も残っていなさそう。


 名無し

 :まあ、詰んだな

 名無し

 :ワイの華ちゃんが

 名無し

 :腰がピヤピヤするwww


 炎の柱も消え失せ、鬨人も苦しそう。

 麗音も矢を使い果たし、短剣を握る。


 亜理紗の方は武器の短剣が折れてしまい、焦りながらアイテムや武器を保存しておける亜空間収納に手を突っ込んだ。


 あれ?

 こんなのいつの間に?


 手に触れたものを取り出すと、ギザギザの刃がついた剣が出てきた。

 柄のところにボタンがついおり、親指で押すとチェーンソーのようにギザギザの刃が回転しだした。


 名無し

 :あの武器、カッコ良すぎん?

 名無し

 :【ソーブレード】だね

 名無し

 :なん、だと……って知らんけどw


 剣を草刈り機のように地面スレスレを左右に振るだけで、蜘蛛が面白いように千切れ飛んで行く。


 でも、問題はあの白狒パピオムとかいう化け物。

 亜理紗は疲れ果ててその場で座り込んだ鬨人の前に出る。

 蜘蛛はいなくなったが、右腕が異常に膨らんでいる化け物は微動だにせずこちらを見ている。


 亜理紗が化け物に近づいていき、残り10歩を切ったところで、化け物が急に動いた。


 右のバカみたい巨大な腕で拳を作り、真っすぐパンチを繰り出してくる。亜理紗はその巨大な拳に向かってソーブレードを振り下ろした。すると当たれば即死しそうな拳が裂けるグミを軽く千切るように手応えもなく真っ二つになった。


 名無し

 :ほんまに威力がレベチ!

 名無し

 :それれな!?

 名無し

 :それれれな!?


 しかし……。


 半分に千切れた腕がさらに巨大な二本の腕に変わる。

 ソーブレードで少しでも受け損ねたら終わってしまいそう。


 二本の巨大な腕が違う角度で亜理紗を襲う。

 ズドっと上の方から迫っていた巨大な腕に風穴が空き、腕が横へ流れた。亜理紗はもう1本の腕を先ほどと同じように切り裂いてなんとかやりすごせた。


 化け物へいったいなにが飛んできた!? 

 でも、今はその疑問は意識の底へ沈めておく。


 右腕が4本に増えた。

 これ以上はホント無理。


 でも……後ろに鬨人と麗音がいる。

 亜理紗が避けたり、後ろに下がったら二人とも化け物にやられてしまう。

 化け物が4本の右腕を振り上げた瞬間、また、なにかが飛んできて化け物の4本の腕を吹き飛ばした。


「はぁぁあッ!」


 一気に前に踏み込む。

 鋭く息を吐き出しソーブレードを斜めに斬り上げ化け物の腰から肩にかけて斜めに真っ二つにした。


 でも手をそこで止めなかった。

 化け物を細切れになるまでソーブレードを振り続けた。


 戻ろうと蠢いている。

 それどころか膨張してさらに大きくなろうとしていることに気付き、鳥肌が立つ。だが、直後にゴリッと石が割れる音が聞こえると、大きなバケツをひっくり返したように化け物の肉片は動かなくなった。


 名無し

 :この子、いい……

 名無し

 :可愛いけど、ギリ、感動が勝った

 名無し

 :神々しいオーラすら感じるw


 何とか倒せた。

 それにしても先ほどの「砲撃」はいったい誰がしたんだろう……。







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