第22話
「まあ、こんなもんでしょ」
茶髪の男は、亜理紗の前に二度と仁科華とその一族が姿を見せないと断言した。
「じゃあ、余興が終わったから本番と行こう」
これからあるゲームをしようと拒否権のない話をし始める。
「っとその前に自己紹介。飯塚楼、ローと呼んでね」
本当は、大事な取引を終わらせてから父とゲームをしようとしていたそうだが、亜理紗を拉致したことで状況が変わった。
父、一郎とゲームができない代わりに娘である亜理紗と賭けをすると言い出した。
「まず間違いなく親父さんはここへ来るよ」
「──ッ!?」
すこし早いか遅いかだけで、優秀な父親は時間さえあれば東京から遠く離れた海上だろうが必ずやってくると話す。
「親父さんの目的はキミを取り返すこと。だけど……」
仮に娘を助ける目前に違法なダンジョン関係の大きな取引を発見したら、どう動くか……。つまり、娘を取るか任務を取るかの選択を父がどちらを選び取るのか。
「さあ、選んでいいよ、どっち?」
家族か仕事か?
そんなの家族だってすぐに答えたい、だけど……。
父がもし、そういった政府機関の人間なのであれば公務を優先するかもしれない。
家族だと期待して、もし仕事を選んだら?
先ほどの華ちゃんの話はたしかに自業自得な面があるが、彼の目的に邪魔だからという理由だけで、顔も知らない男に今後の人生を変えられた。人を不幸のどん底に叩き落として喜ぶような人間にまともな人がいるわけがない。目の前に立っている茶髪の男は、亜理紗という
今は思春期に入ったから正直になれないけど、父のことは今でも好き。
家族のことを一番に考えてくれている。
でも、もし父の性格がこれまですべて演じられたものだとしたら?
でも、
それでも……。
「私は……」
「来ました」
髭を生やした男がそう言いながら、亜理紗の陰に隠れる。
カジノに突入した一郎と李は部屋の中にいた他の黒服の男5人を一瞬で倒した。
一郎は麻酔銃、李は投げナイフ。
「おっと、残念」
飯塚楼に麻酔針が効かなかった。実体がその場所になく針がむなしく通過してしまった。
「空間仮想現実、か?」
「当たり~、また会ったね、『小林一樹』さん」
「……」
「図星でしょ?」
小林一樹は以前、初めて飯塚楼に接触した時に使った偽名。
あの時は、人工皮膚で外見を変えていたはずなのにどうやって調べたのかは謎。
「ぐふっ」
「あらら、面白そうな仲間も一緒だね」
気配を感じたので、対応しようとしたら李が先にナイフを投げて倒した。
部屋の中には一郎と李、亜理紗、傭兵風の男の4人以外にもうひとり潜んでいた。どうやら視界から人やモノを消す技術──DR(減損現実)の技術もRvRには組み込まれているようだ。
「お父さん」
「亜理紗、もう少し待ってね、今片づけるから」
亜理紗の真後ろに立っている傭兵風の男は隙がない。
娘を人質にするつもりはないようだが、盾にしている。
「娘さんとある賭けをしたんだよね!」
飯塚楼は現在、船の船首側にあるヘリポートにいると自白した。
「韓国側から大量の個人ダンジョンがこれから送られてくるんよ」
「それがどうしました?」
まあ、もう少し話を聞いて、と飯塚楼は話の続きを次のように語った。
個人ダンジョンを大量に載せた韓国側の船は漁船に扮していて、船底には無人潜水艇が艤装してある。約20キロ離れたところから海中深度50メートルの深さを魔石推進機により無音航行してくるので日本、韓国双方の固定式水中聴音機による音紋探知や衛星レーダーには引っかからない。
それが、あと15分後に到着する予定。飯塚楼は無人潜水艇の先端にある大量のダンジョンコアが収納された部分だけを取り外し、ヘリにつなげ、この豪華客船から離れる予定だと計画をおおまかに説明した。
「手に入れたダンジョンを使って悪いことしちゃう予定なんだよね~」
飯塚はそこまで話し、人差し指を軽く立てると、傭兵の男が手に持っているスイッチを押した。亜理紗が縛られて立っていた真下に隠されていたダンジョンコアが光り、ゲートの中に亜理紗が飲み込まれた。
「以前と同じタイプの脱出が難しいチートダンジョン」
東北のトンネルで罠にかかったチートダンジョン。法人ダンジョンをベースに改造されているので、ダンジョン内ので死は、そのまま現実世界での死を意味する。
豪華客船中に警報音が鳴り、一郎と李という侵入者の現在位置が乗組員や見張りの男たちへ知らされる。
「さあ、どうするの? 娘or任務」
性格が悪いな。任務を優先させるように仕向けているのか?
任務を選んで亜理紗にもしものことがあったら一生後悔する。
ただ、大量のダンジョンで、大勢の犠牲者を出す大事件がこれから起きるとしたら? それを阻止できるタイミングが今しかなかったら?
どちらを選択しても、後悔するように作り込まれている。
だが、この究極の二択を作った飯塚楼という男がなんとなくわかった気がする。
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