第28話


「め、めんそ~れ……」

「あっ、どうも」


 那覇空港の到着ロビーで一郎を出迎えてくれた男は気恥ずかしそうに方言で「ようこそ」という挨拶とともに出迎えてくれた。


 別にそれは構わないのだが、サイズ感がバグっている。

 身長ジャスト200センチ。黒人男性で名は「ジェームス・シェイカー」という。神籬沖縄支部のメンバーでコードネームは【四七亀よんななかめ】。とにかく見た目のインパクトがありすぎて潜入調査などは、絶望的に向いていない可哀そうな男。


「それでは、さっそく」

「待てーいッ!」


 え……どこからか声が聞こえた。声はすれども姿が見えず。

 一郎はキョロキョロとあたりを見回していると、至近距離で真下に女の子がいたのに驚いた。腕組みをして仁王立ちした女の子は、娘の亜理紗よりも背が小さい。


 目測でおよそ140センチくらい? 小学生並みの身長しかない。

 前髪ありのショートボブで、肌がこんがり焼けている南国の少女……のはず。


「よくもわんを無視したな、お約束かぁぁーーッ」


 いやいや、今のは本当にわからなかった。けっして悪気があったわけではない。


わんの名前は成底なりそこなぎ

「田中一郎です」


 亜理紗よりも年下なんだろうか?

 でも、たしか神籬の沖縄支部に最近入った新人がそんな名だったような……。


「歳はいくつ?」

「やっぱりそう聞いてくると思った」


 あまり年齢のことは触れてほしくないようだ。

 それもそうか……。

 この見た目で20歳超えてるって、ちょっと想像できない。


「そっちこそ、組織の実力No2・・・には見えない」

「ははっ、私はそんな大層なものではありません」


 昨年あたりから神籬のメンバーで誰が一番強くて、鮮やか・・・に任務を達成するかを競う風潮がある。だが、一郎はそんなものに興味もなく自分の順位が何番だろうと嬉しくもなんともなかった。


「それでは、そろそろ……」

「はい、お願いします」


 成底凪はまだ何か言いたそうだったが、車で移動中にでも話を聞こうと、ジェームス・シェイカーの案内の下、那覇空港から移動した。


 3トンタイプのアルミバン。

 見た目は普通の貨物運搬用のアルミバンだが、軍用の装甲板が内側に施され、バーストしても走行可能なランフラットタイヤを履いている。そのため、銃撃戦に曝されても、ロケット弾を被弾しても耐えうる仕様で、これほど安全な車は、国内外を見渡しても、なかなかお目にかかれないだろう。


 後ろの荷台の中は、電子機器に埋め尽くされていて移動する情報通信基地さながらの内装をしている。


 ジュームスが運転し、瀬長島に到着すると彼は後方の通信室に籠り、代わりに成底なりそこ凪が一緒にホテルへと入った。


 凪へ聞くと、ジェームスが分析班で凪が潜入・強襲班だという。ちなみに沖縄支部はラビキンという清掃会社の隠れ蓑を使わず、カリフォルニア・エンジニアリングという会社に依存している。米カリフォルニア州に本社のある総合建設会社で、沖縄には多数の米軍基地が駐留していることから土木、建築、電気、機械、設備とありとありうる業種を一手に担っている。日本の民間施設の建設業も手掛けているため、沖縄のどこにいても違和感がないのが特徴。この企業を隠れ蓑にしているのは神籬の他に米CIAや米国のダンジョン庁の裏組織であるBBG-黒牛組合Black Bison Guildと呼ばれる組織も利用していて神籬とは協力関係にある。


 ホテルに対して、成底凪が刑事として振る舞う。一郎は多少、変装はしているものの、人工皮膚を塗布していないので、前面にはなるべく出ないように立ち回っている。


「コールしてもお取りにならないですね」


 ホテルは原則的に顧客の情報を保護する義務がある。そのため、根拠法令を伝え照会状を渡し、沖縄県警本部へ連絡・確認を取ってもらい、初めて捜査に協力してくれた。


「では、一緒に部屋までお願いします」


 凪に協力を求められた客室係が、上司へ確認を取り、部屋まで一緒に同行した。ノックした後、カギを開けて入ろうとしたところ、ドアロックが掛かっていたので、客室係がもう一度部屋に向けて声掛けした後、ある方法でドアロックを解除した。解除方法はホテル側の極秘で凪と一郎も配慮して解除方法を見ないように心がけた。


 浴室からシャワーの音が聞こえたので、先に部屋へ入ろうとした客室係に合図をして、成底なりそこ凪が音を立てないよう気を付けながら浴室の扉へ近づく。


「あぎじゃびよぃ、勘づかれてたッ!?」


 凪が浴室を一瞥したあとすぐにベッド側へ移動すると、荷物ともどもジャマル・ハニアの姿が消えていた。


 3人はすぐにフロント裏のモニタールームに移動して、ホテル内の定点カメラの映像を高速で逆再生していく。


 映像をしばらくチェックしていると、一郎と凪がホテルに到着する15分前に会計を済まさず何食わぬ顔で建物から出ていくジャマルを発見した。最近よく犯罪で使われる高性能のシリコンマスクを顔に被っており、フロントも気づかなかったようだ。


「楼、今の話は?」

「聞いてたよー、今、一帯の交通情報用カメラを確認中」

「電話の相手は誰ね?」

「本部の分析班」


 そもそも東京にいながら、沖縄にいるエージェントのサポートができるメンバーがいることに凪は驚いてる。


 無理もない。

 飯塚楼以外にこんな芸当をできるものは誰もいないのだから。




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