第44話
「なぜだ……なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ? なぜだ?」
(壊れた頭じゃ答えなんて出ないんじゃない?)
「お前は……アキラ!?」
(え、誰? こんなオッサン知らないけど?)
パーヴェルが自問を狂ったように繰り返していると楼がツッコみを入れた。飯塚楼の本名はアキラ・パーヴロヴィチ・ザイツェフ。実の父親であるパーヴェルに対して素っ気ない……というより心の底から無関心で、相手にもしていないということだろう。
(それよりさ、そのゲート、今ならまだ閉められるけど?)
「──っ!?」
まだ閉められる?
いったいどうやって?
(中から簡単に閉められるって書いてあるよ)
楼はただパーヴェルの長い話を聞いていたわけではなかったようだ。
迦具夜記というキーワードが出た瞬間、ロシアにある民間研究所にハッキングを掛けてデータを奪い、瞬時に解析を掛けたらしい。
「ふふっ、さすが私が
正解、ということか。
しかし、意地悪そうな笑みを浮かべているパーヴェルを見ると、正解ではあるがそれができない理由があるようにも思える。
「だが、どうするのかね?」
現状では不可能である理由、それは……。
「3.3 × 10^10
木更津人工島……海ランタンへ供給される電力を奪い続けること数時間。ようやく3人分の渡航エネルギーを生み出せたのになんの準備もしてない自分たちにそれができるのかと聞いてくる。
「できますよ、これがあれば」
「誰だね、君は?」
沖縄支部の分析班ジェームス・シェイカー。
2メートルの巨体は、パーヴェルを守る屈強な男たちを超えている。
彼の手にはバスケットボールくらいの大きさの黒い箱が乗っている。
「ニコラ・テスラが発明したテスラボックス」
ニコラ・テスラ……トーマスエジソンを超える歴史に埋もれた天才。
アメリカFBIがニコラ・テスラの死後、彼の自宅から押収した無数の発明品の中にその設計図が紛れていた。
テスラボックスは、あの偽装アルミバン車両の燃料源であり、それを引き抜いてきたそうだ。
この黒い箱ひとつで、あの3tアルミバントラックが10万キロ以上は走行できるそうで、代替エネルギーとしては申し分ないという。
「では、それを没収させてもらうとしよう」
「させるかぁぁぁ!」
パーヴェルが指を鳴らし、周囲にいる異能者たちに合図を送ると、その内のふたりがジェームスを襲った。だが、ひとりは新たに現れた黒い影に後頭部を打たれ気絶して、もうひとりはジェームスの左手にはめたグローブに殴られ吹き飛ばされた。
成底凪が両手に
「なんと、こんな愛くるしい少女がいるとは……」
「ロリ視線で見てくんなっ!? このド変態!」
吠える凪。対して研究対象として見ているのか定かではない狂研究者。
それにしても相変わらず元気そうで何より。しかし……。
「では、これを」
「いや、それではあなた達が……」
2人でこの場を抑えるからダンジョンの中へ行くようジェームスが合図を送ってきたが、一郎でもこの数の異能者を相手にするのは厳しい。
応援が駆け付けるのはおそらくあと3分弱。その間に2人だけでこの人数と渡り合うのは無理がある。
(お待たせ~、もう大丈夫)
これは?
いつの間にか空には無数のドローンが浮いていた。
(こっそり開発していた戦闘ドローンだよ)
その数、約100機。
普段は神籬本部の屋上に格納されているため、到着に多少時間を要したようだが、空を飛んできた分、他の応援部隊より早く到着できたらしい。
楼は神籬に加入する以前からこの戦闘用ドローンを開発していたそうだ。当時予定していた使い道はさておき、頼りになる同朋の登場で一気に形勢が
これなら大丈夫。
一郎は、四七亀……ジェームスからテスラボックスを受け取り、楼の戦闘ドローンや凪の援護を受けながら、ゲートの中へと飛び込んだ。
「なんということだ……よりにもよってあの男の侵入を許すなんて」
パーヴェルとしては、田中一郎だけはなんとしても阻止したかった。そのために娘を誘拐して、真時代へ閉じ込めたのに……。
真時代へのダンジョンゲートが完全に固定されるまであと5分といったところ。それまでこの場所を人工異能者で死守すれば、悲願の成就は確定だった。パーヴェルの悲願とは現ロシア政府の崩壊。争奪戦が始まって想定では約72時間後に西側諸国との核の撃ち合いが始まると予想していた。
もちろんパーヴェル自身は、その前に真時代へ逃亡するつもりでいた。だが、想定していたよりもずいぶんと早く田中一郎が来てしまった。本来、想定していたシナリオでは、パーヴェルが移動した後に到着した田中一郎へ彼の部下に娘を人質に取っている話をさせ、向こうの最大戦力を無効化するつもりでいた。テレポート魔石を巡るドルドアンソー事件でも田中一郎さえいなければ、アメリカの巨大軍需企業は莫大な利益を手にできたはずだった。そのため、
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