第16話 酒造の月 ②
港町・門司港にある老舗の酒蔵「港町酒造」は、その歴史と伝統を誇る名門である。その酒蔵で、特別なイベントが開かれることとなった。新作の日本酒「月影」の発表会だ。地元住民や観光客、そして日本酒愛好家たちが一堂に会し、華やかな雰囲気に包まれていた。
会場には豪華な料理が並び、賑やかな会話が飛び交う。そこには、港町酒造のオーナーである川村信一も立っていた。彼の目には、自信と誇りが宿っている。「月影」は、祖父である川村大助の夢を継ぎ、長い年月をかけて完成させた酒だ。信一は、この酒が新たな時代の象徴となることを確信していた。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。今宵、皆様にお披露目するのは、新作の日本酒『月影』です。この酒は、私たちの伝統と革新の結晶です。どうぞ、ご堪能ください。」
信一の挨拶に続き、「月影」が注がれたグラスが配られる。人々はその透明な液体に目を輝かせ、期待と好奇心に満ちた表情を浮かべていた。彼らは、まるで聖なる儀式のように一口を口に含んだ。
しかし、その瞬間、会場の空気が一変した。人々の表情が次々に曇り、不安そうな声が上がり始めた。
「なんだ、この味は…」
「変な匂いがする…」
「こんなはずじゃない…」
ざわめきが広がり、信一の顔にも困惑の色が浮かんだ。彼はすぐにスタッフに指示を出し、状況を確認し始めた。しかし、答えは見つからない。すべての工程は慎重に管理されており、問題が起きるはずがなかった。
信一は、心の中で佐藤正樹の言葉を思い出していた。「酒には魂が宿る」と。彼は自分の手で酒を育ててきたが、この異変の原因は何なのか、全く検討がつかなかった。
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その夜、信一は三田村香織と藤田涼介のもとを訪れた。二人は町でも有名な探偵であり、これまでも多くの事件を解決してきた。信一は、彼らに助けを求めるしかないと考えていた。
「どうか、私たちの酒蔵を救ってほしい。このままでは、祖父の夢も私たちの努力もすべて無駄になってしまう…」
信一の真摯な訴えに、香織と涼介は頷いた。
「わかりました。私たちが真相を突き止めます。そして、あなたの酒蔵を救いましょう。」
こうして、香織と涼介は「月影」の異変の真相を探るために動き始めた。彼らはまず、酒蔵のスタッフや関係者にインタビューし、日本酒の製造過程を詳しく調べることにした。
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