第18話 酒造の月 ④
港町酒造の発酵タンクの異常に関する情報を得た後、香織と涼介は再び蔵へ戻った。涼介は、タンクに顔を近づけて深く息を吸い込んだ。その香りには、どこか異質なものが混じっているのが感じ取れた。
「何かが違う…確かに何かが混ざっている。」
涼介はそう呟き、慎重にタンクの周囲を調べ始めた。一方、香織はタンクの記録を調べていた。発酵の過程でどのような変化があったのかを確認し、細かいデータを読み取っていた。
「涼介、これを見て。タンクの温度が急上昇した時期と、酵母の異常が発生した時期が一致しているわ。」
香織の指摘に、涼介は頷いた。
「そうか、それが鍵だな。温度が上がった原因を突き止めれば、何が混入されたのかも分かるかもしれない。」
涼介は、持参したサンプルを慎重に調べ始めた。その中には、最近流行している新しい発酵技術で使用される特定の菌が含まれていた。彼はその香りを嗅ぎ、舌で味を確かめながら、頭の中で料理のレシピを思い浮かべていた。
「この香りは…あれに似ている。」
涼介は急に立ち上がり、キッチンへ向かった。香織も驚きながら後を追った。
「何を思いついたの?」
「一度試してみたい料理があるんだ。」
涼介は、持ち帰ったサンプルを使って実験を始めた。まず、基本的な材料を揃え、鯵の南蛮漬けを作り始めた。彼は注意深く材料を選び、調理の過程を進めていった。
「この料理の味と香りは、日本酒と非常に相性がいいんだ。それに、酒造りにおいても同じ原理が適用される。」
涼介は、出来上がった鯵の南蛮漬けを香織に差し出した。
「香織、これを食べてみて。酒の香りと味の違いを感じ取れるはずだ。」
香織は一口食べ、驚いた表情を浮かべた。
「この味…確かに何かが違う。これは…」
涼介は頷きながら説明を続けた。
「この料理に使われる特定の酢と砂糖のバランスが、発酵の過程に影響を与えているんだ。同じように、酒造りにおいても特定の菌が酵母の活動を変えることがある。」
涼介の説明に基づき、二人はさらに詳細な調査を進めた。涼介はタンクから採取したサンプルを分析し、特定の菌の存在を確認した。その菌は、一般的には酒造りに使われない種類であり、意図的に混入されたものであることが明らかになった。
「この菌が原因で、発酵のバランスが崩れ、味が変わったんだ。」
香織はその結果をもとに、関係者への追及を開始した。
「誰かがこの菌を持ち込んだに違いない。そしてその人物こそが、今回の事件の真犯人だ。」
こうして、香織と涼介はさらに深く調査を進め、ついに犯人の手がかりを掴むことに成功した。涼介の料理と日本酒に対する深い知識が、事件の解決に向けた重要なヒントとなり、真実が次第に明らかになっていった。
「香りと味が教えてくれる真実が、いつも我々の手助けをしてくれる。」
涼介はそう言いながら、次のステップへと進む決意を新たにした。彼らの探偵としての旅はまだ続く。そして、その先にはさらなる謎が待ち受けているのだった。
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