第2話 高級レストランでの殺人 ②
翌朝、ミタムラ&フジタ探偵事務所に響く電話のベルが、静寂を破った。三田村香織は素早く電話を取り、短く返事をした後、相棒の藤田涼介に向かってうなずいた。「事件だわ。ラ・ベルエポックで、料理評論家の小林太一が毒殺されたらしい。」
涼介は興味深げに眉を上げ、「毒殺?面白そうだね。現場に急ごう。」
二人は早速、現場へと向かった。到着すると、レストランはまだ昨夜の事件の余韻に包まれていた。警察の黄色いテープが入り口を封鎖し、数人の警察官が出入りしている。
「探偵の三田村香織です。こちらの事件の調査を依頼されました。」香織は警察官にIDを見せ、立ち入りを許された。涼介もその後に続いた。
店内は普段の華やかさを失い、静寂と緊張が支配していた。田中美樹が近づき、目に涙を浮かべながら話し始めた。「昨夜のことは、本当に恐ろしい出来事でした。小林先生が突然…。」
香織は優しく微笑み、「ご安心ください、田中さん。私たちが真相を突き止めます。」
中村健一シェフも現れ、その顔には深い疲れが刻まれていた。「中村シェフ、昨夜の出来事について詳しくお聞かせ願えますか?」香織が問いかけた。
中村は深いため息をつき、語り始めた。「小林先生には、特別なトリュフリゾットを用意しました。最高の素材を使い、全力で調理しました。まさか、そんなことが起きるなんて…。」
涼介が興味津々にキッチンの方を見やり、「そのトリュフリゾット、詳しく教えてもらえますか?どのように作ったのか、そして使った食材についても。」
中村は黙って頷き、二人をキッチンに案内した。そこには、まだ昨夜の余韻が残る調理台があった。中村は一つ一つの手順を説明しながら、トリュフの瓶を取り出した。
「これが昨夜使用したトリュフです。イタリアから取り寄せた最高級品です。」彼の手には、瓶詰めされた黒いトリュフが輝いていた。
香織はそれを手に取り、慎重に観察した。「なるほど…では、このトリュフを使って毒が仕込まれた可能性がありますね。」
涼介は調理台に並ぶ他の食材にも目を向け、「他に何か変わったことはありませんでしたか?スタッフの中で、誰か不審な動きをしていたとか。」
中村はしばらく考えた後、「いや、特に変わったことはありませんでした。でも、昨夜は忙しかったので、全てを把握していたわけではありません。」
その時、田中美樹が再び現れ、「小林先生が倒れる前に、誰かがキッチンに入ってきたのを見たという証言がありました。おそらく、彼が毒を仕込んだのかもしれません。」
香織と涼介は顔を見合わせ、「それが鍵かもしれないね。」香織が言った。
二人はさらに調査を進めるために、スタッフ全員から話を聞くことにした。涼介は調理過程や食材の出所に焦点を当て、香織は各人物のアリバイや動機を探るために、徹底的に質問を繰り返した。
「昨夜、何か変わったことはありませんでしたか?」香織は一人のウェイターに尋ねた。
「特に変わったことはありませんでしたが、佐藤さんがキッチンにいるのを見かけました。彼はもうこの店を辞めたはずなのに…。」ウェイターが答えた。
涼介が興味深げに付け加えた。「佐藤健吾?彼が小林先生と何か関係が?」
香織は真剣な表情で、「これはもっと深く掘り下げる必要があるわね。佐藤健吾の動きを追ってみましょう。」
調査は始まったばかりだが、香織と涼介の鋭い洞察力とチームワークが、この難解な事件の真相を明らかにするまで続くことになる。
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