【完結】港町事件簿 特別編 グルメ殺人事件簿 ①

湊 マチ

第1話 高級レストランでの殺人 ①

夕暮れ時、港町に佇む高級レストラン「ラ・ベルエポック」の前には、煌びやかな車が次々と停まっていた。オレンジ色の夕陽が建物を優しく照らし、その姿を一層美しく見せている。今夜は、新メニューの発表会が行われる特別な夜。店内からは楽しげな笑い声とともに、軽快なジャズが流れてくる。


店内に足を踏み入れると、豪華なシャンデリアの光がきらめき、白いクロスが掛けられたテーブルが整然と並んでいた。ウェイターたちは流れるような動きでサーブを続け、客たちはグラスを傾けながら談笑している。


「お客様、どうぞこちらへ。」シックな黒い制服を着たマネージャーが、次々と到着するゲストを丁寧に案内していた。その中には、著名な料理評論家、小林太一の姿もあった。


「小林先生、お待ちしておりました。」マネージャーの田中美樹が、緊張気味に微笑んだ。小林は微笑み返すと、ゆっくりとした足取りでレストランの奥へと進んだ。彼の目は鋭く、店内の隅々まで見渡している。


「ここは…なるほど、なかなかいい雰囲気ですね。」小林は低く呟いた。田中は内心ホッとしながら、彼を最も良い席へと案内した。


一方、厨房ではシェフの中村健一が忙しなく動き回っていた。彼の顔には緊張の色が浮かんでいる。「今日は失敗は許されない…」と、彼は自分に言い聞かせるように呟いた。


「中村シェフ、トリュフリゾットの準備はどうですか?」助手が尋ねる。


「もう少しで完成だ。仕上げには細心の注意を払ってくれ。」中村は真剣な表情で答えた。彼の手元には、特製のトリュフが輝いている。


その頃、店内では客たちがグラスを片手に談笑していた。「小林先生が来るって、本当ですか?」一人の客が隣のテーブルの友人に尋ねる。


「ああ、そうらしいよ。彼のレビュー次第で、この店の運命も変わるんだってさ。」友人が小声で答える。二人は小林の姿を見つけると、興味津々に視線を向けた。


小林は静かにディナーを楽しんでいた。彼は一口一口、丁寧に味わい、そのたびにノートに何かを書き込んでいる。周囲の客たちも、その姿に気を配りながら食事を続けていた。


「これが最後の一品です。」ウェイターが慎重にプレートを運び、小林の前に置いた。「特製のトリュフリゾットでございます。」


小林は一瞬、目を細めてプレートを見つめた。「ほう…これは興味深い。」彼はスプーンを手に取り、慎重に一口食べた。


その瞬間、小林の表情が変わった。彼の顔が急に青ざめ、激しい咳き込みが始まった。周囲の客たちが驚き、スタッフが慌てて駆け寄る中、小林はテーブルに崩れ落ちた。


「先生!しっかりしてください!」田中美樹が叫び、救急隊が到着するまでの数分間が永遠のように感じられた。しかし、すでに手遅れだった。


小林太一は、その場で息を引き取った。レストランは一瞬にして騒然となり、華やかな夜が一転して恐怖と混乱の夜へと変わった。

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