第8話 和菓子職人の秘密 ③
香織と涼介は山田を警察署に連れて行き、詳しい証言を聞いた。山田の話から、彼が毒を盛っていないことは明らかだった。しかし、誰が毒を盛ったのかがまだわからなかった。
香織は警察署の外に出ると、深呼吸をしながら涼介に言った。「山田が毒を盛った犯人ではないことは確かね。でも、まだ真犯人を見つけていない。」
涼介が頷き、「他に疑わしい人物は…やはり佐々木だろうか。彼には何か隠しているような気配があった。」
二人は再び花菓子屋に戻り、佐々木拓也に再度話を聞くことにした。厨房で忙しく働く佐々木を見つけ、香織は声をかけた。「佐々木さん、少しお時間をいただけますか?」
佐々木は驚いた表情で振り返り、「もちろんです。何か新しいことがわかりましたか?」
「実は、山田さんから話を聞きました。彼がレシピノートを盗んだことは認めましたが、毒を盛ったのは別の人物だと言っています。」香織が説明すると、佐々木の顔色が変わった。
「それで…私に何を?」佐々木が不安そうに尋ねた。
涼介が鋭い目つきで、「あなたには何か隠していることがあるんじゃないですか?」
佐々木は一瞬戸惑ったが、やがて深いため息をついた。「実は…一郎さんに嫉妬していました。彼の才能に追いつけないことが悔しかった。だから、彼のレシピを手に入れたいと思った。でも、毒を盛るなんてことはしていない。」
香織はその言葉を聞き、「あなたがレシピノートを手に入れたかった理由はわかりました。でも、それだけでは毒を盛った動機にならない。」
佐々木は沈黙し、苦しそうに頭を抱えた。「真実を言うと…一郎さんのレシピを盗む計画を山田と一緒に立てました。でも、毒を盛るなんて話は一切なかった。」
涼介が深く考え込み、「つまり、山田もあなたも毒を盛っていない。では、一郎さんに毒を盛ったのは他の誰かということか。」
その時、店の奥から高田美代が現れた。「聞いてください。私も気になることがあります。最近、一郎が秘密裏に誰かと会っていたんです。」
「その人物は誰か分かりますか?」香織が尋ねた。
「はい。古くからの友人で、和菓子職人の鈴木浩一です。彼が何度か店に訪れていました。もしかすると、彼が関与しているのかもしれません。」高田美代が答えた。
香織と涼介はその情報を元に、鈴木浩一に会うために急行した。鈴木の自宅に到着し、彼に事情を尋ねると、彼は驚いた表情で全てを話し始めた。
「一郎とは昔からの友人でしたが、最近彼と競り合うような関係になっていました。彼の成功が妬ましかった。でも、毒を盛るなんてことは…。」
鈴木の話を聞いた香織は、冷静に推理を組み立てた。「もしかすると、鈴木さんは一郎さんの成功を妬み、彼のレシピを手に入れるために毒を盛ったのかもしれません。既にレシピが盗まれているとは知らずに」
涼介が頷き、「それが動機になるね。」
香織は鈴木に向かい、「あなたが一郎さんに毒を盛ったのですね?」
鈴木は観念したように頷き、「そうだ。彼の成功が許せなかった。あの日お店を訪れてレシピを貸して欲しいとお願いしたんだでも、いい返事がもらえなかった…こんなことになるとは思わなかった…。」
香織は冷静に、「あなたの行動は決して許されない。チェックメイトです。」
鈴木は肩を落とし、警察に連行された。
エピローグ
事件が解決し、香織と涼介は再び花菓子屋を訪れた。高田美代は再開された店で、新しい桜餅を手にしていた。
「一郎のレシピノートが戻ってきて、本当に感謝しています。」高田美代が涙ながらに語った。
「これからも素晴らしい和菓子を作り続けてくださいね。」香織が微笑んだ。
「もちろんです。これからも一緒にがんばりましょう。」涼介が付け加えた。
二人は桜餅を味わいながら、新たな事件に挑むためのエネルギーを蓄えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます