第20話 酒造の月 ⑥

港町酒造は新たな息吹を感じていた。佐藤正樹と川村信一の手で、再び酒造りが始まり、その情熱と技術が結晶となった日本酒「新月」が完成した。その美しい琥珀色の液体は、まるで新たな希望の光のようだった。


酒蔵の庭では、祝賀会が開かれ、地元の人々や関係者たちが集まっていた。香織と涼介もその中にいた。


「香織さん、涼介さん、本当にありがとう。」


川村は感謝の意を込めて二人に頭を下げた。佐藤も笑顔で続けた。


「あなたたちの助けがなければ、私たちはここまで来ることはできなかった。これからも共に最高の酒を作り続けたい。」


「それは私たちの喜びです。港町酒造が新たな一歩を踏み出すのを見届けられて、本当に嬉しいです。」


涼介は微笑みながら答えた。


祝賀会の最中、香織はふと一人の女性の姿に気づいた。彼女は会場の隅で、何かを探しているようだった。香織はその女性に近づき、声をかけた。


「何かお探しですか?」


女性は驚いた様子で振り向いた。その瞳には焦りと不安が見えた。


「すみません…私は、この酒蔵に関する古い記録を探しているんです。」


「古い記録ですか?何か特別な理由があるんですか?」


女性はためらいながらも、手元の古びた写真を香織に見せた。それはかつての港町酒造の写真で、若かりし頃の佐藤正樹が写っていた。


「この写真の裏に、何か手がかりがあるはずなんです。」


香織は写真を見つめ、胸の中に新たな予感が芽生えた。


「わかりました。詳しくお話を聞かせてください。」


その時、涼介が近づいてきて、香織に声をかけた。


「香織、何か問題があるのかい?」


「ええ、この方が古い記録を探しているの。でも、何か不思議なことがあるみたい。」


涼介も写真を見つめ、興味深そうに頷いた。


「よし、新たな調査の始まりだね。」


香織と涼介は、新たな謎を追いかける決意を固めた。港町酒造の過去に隠された秘密と、その背後にある真実を解き明かすため、二人は再び旅立つことになった。


「一歩一歩が、新たな未来を切り開いていくんだ。」


涼介は静かに呟いた。その言葉に、香織も微笑みながら頷いた。


こうして、二人の探偵としての新たな冒険が幕を開けた。港町の静かな夜に、再び謎が動き出す――。

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