第10話 フレンチレストランの悲劇 ①

港町の夜空に星が輝く中、高級フレンチレストラン「ル・グラン・シュバリエ」はその洗練された外観で人々の目を引いていた。石造りの外壁にアンティークのランプが優しく灯り、木製の扉には美しい彫刻が施されている。店の周囲には季節の花々が彩りを添え、香り高いフランス料理の匂いが通りを包んでいた。


その夜、レストランの店内もまた賑やかで、テーブルには美味しそうな料理が所狭しと並び、ゲストたちは上質なワインを楽しんでいた。シャンデリアの光がグラスに反射し、華やかな雰囲気が漂っている。ソムリエのジャン・ルイは、優雅な動作でワインを注ぎ、お客たちの笑顔を引き出していた。


「こちらが本日のおすすめのワインです。」ジャン・ルイは、豊かな表情でワインの説明をし、ゲストたちは感謝の言葉を返す。


しかし、その夜の静けさは突然の悲劇で破られた。ワインセラーから激しい物音と悲鳴が響き渡り、スタッフが慌てて駆けつけた。ワインセラーの奥で、ジャン・ルイが血まみれで倒れていた。彼の顔には驚きと苦痛の表情が浮かび、ワインボトルが割れて散乱していた。


翌朝、探偵事務所のドアが音を立てて開き、フランソワが訪れた。香織と涼介はデスクの向こうで迎え入れる。


「ル・グラン・シュバリエのオーナーシェフ、フランソワ・ルブランです。」フランソワは緊張した様子で名乗った。


「どうぞ、お掛けください。」香織が穏やかに促す。


フランソワは深い息をつき、話し始めた。「昨夜、私の店で悲劇が起こりました。ソムリエのジャン・ルイがワインセラーで倒れ、死亡しました。警察は事故と見ていますが、私は疑念を抱いています。彼は単なる事故で死ぬような男ではないのです。」


「その疑念の理由をお聞かせいただけますか?」涼介が尋ねた。


「ジャン・ルイは非常に慎重な人物で、ワインセラーの管理も完璧でした。それに、ワインボトルの配置が通常と違っていたんです。」フランソワが説明した。


「わかりました。我々が調査を引き受けます。まずは現場を見せていただけますか?」香織が決意を込めて答えた。


翌朝、穏やかな朝日の中、香織と涼介は「ル・グラン・シュバリエ」に到着した。石畳の道を歩きながら、店の外観に目をやる。陽の光に照らされた花々が鮮やかに咲き誇り、店の正面には警察のパトカーが停まっていた。


「こんな美しいレストランで、こんな恐ろしいことが起きるなんて信じられないわ。」香織がため息をついた。


「そうだね。でも、俺たちの仕事はここからだ。」涼介が静かに答えた。


二人は店の中に入ると、悲しみに包まれたスタッフたちの姿が目に入った。店内の豪華な内装は変わらず、美しいシャンデリアが煌めいているが、その雰囲気はどこか沈んでいた。香織と涼介は店のオーナーであるフランソワに話を聞くことにした。


「フランソワさん、昨日の夜のことについてお聞かせいただけますか?」香織が優しく尋ねた。


フランソワは疲れた表情で、「ジャン・ルイは素晴らしいソムリエでした。彼がこんな形で亡くなるなんて…」と語り始めた。


「昨日の夜、何か不審なことはありませんでしたか?」涼介が続けた。


「特に変わったことはなかったと思います。ただ、彼が倒れる前にワインセラーから何か落ちる音が聞こえました。すぐに駆けつけましたが、彼はすでに倒れていました。」フランソワが答えた。


香織と涼介はワインセラーに向かい、警察からの許可を得て調査を開始した。ワインセラーの冷たい空気が二人を包み込み、割れたワインボトルが床に散乱している様子が見えた。ジャン・ルイの作業台には未開封のワインがいくつか並べられていた。


「ワインボトルがこんなに散乱しているなんて、何かあったに違いないわ。」香織が言った。


「このボトルに何か異変があるかもしれない。」涼介が答えた。彼はボトルを慎重に調べ、手に取ってみた。


「ジャン・ルイの自家製ワインは有名だけど、ここに何か手がかりがあるはずだ。」涼介はボトルのラベルを確認しながら言った。


その時、涼介はボトルのラベルに微細な傷を発見した。「これは…何かの道具で傷つけられたかもしれない。」


「誰かがボトルを使って何かを隠そうとした可能性があるわね。」香織が言った。「もう少し周囲を調べてみましょう。」


二人はさらに調査を続け、棚のネジが緩められていることに気づいた。ネジは手で簡単に回せる状態であり、自然な劣化ではないことが明らかだった。


「これは意図的に緩められた可能性が高いわね。」涼介が言った。


「この状況、やはり単なる事故ではないようね。」香織が答えた。


彼らはさらに周囲を調べることにし、真実を解き明かすための手がかりを探し始めた。

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