第15話 酒造の月 ①

港町の静かな夜明け、霧がかかる中、酒蔵の中では朝焼けと共に活動が始まっていた。佐藤正樹は、今日も早くから蔵の奥深くで働いている。彼は港町酒造の創業者であり、酒造りの達人である川村大助の指導を受けていた。


「正樹、今日は特別な酒を仕込む。君の手でこの酒を完成させてみないか?」


大助の声は、静かな蔵の中でまるで神託のように響いた。彼の目は厳しくも温かく、正樹の才能を見抜いていた。佐藤正樹は、その提案に目を輝かせ、力強くうなずいた。


「はい、師匠。全力を尽くします!」


蔵の中は神聖な静寂に包まれ、佐藤は大助の指導のもと、神々しい儀式のように一つ一つの作業に全神経を集中させた。米の洗浄から発酵、醸造のプロセスまで、すべてが丁寧かつ慎重に行われた。彼はこの瞬間、酒造りの神秘と醍醐味を全身で感じていた。


「正樹、この酒には君の魂が込められている。大切に育てるんだ。」


大助の言葉はまるで祝福のように響き、佐藤は感動しながらも強い決意を抱いた。彼はこの酒が未来の港町酒造の象徴になると信じていた。


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しかし、時が経つにつれて、港町酒造の経営方針は変わっていった。大助の後継者である川村信一は、新しい技術やマーケティング戦略を導入し、伝統を守りつつも現代に適応する道を選んだ。佐藤はその変化に反発し、次第に経営陣との対立が深まっていった。


「私たちの酒造りは、そんな商業主義には合わない。伝統を守るべきだ!」


佐藤の叫びは、酒蔵の中で虚しく響いた。彼の情熱と信念は強かったが、やがてその対立は限界に達し、彼は港町酒造を去ることを決意した。


「私の夢は、ここで終わるのか…」


去りゆく佐藤の背中に、大助の言葉が重くのしかかる。彼はその後も日本酒作りへの情熱を失わず、自分の道を模索し続けたが、心の奥底では常に港町酒造への思いと、叶わなかった夢が燻り続けていた。

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