第6話 和菓子職人の秘密 ①
港町の風情ある商店街に佇む老舗和菓子店「花菓子屋」。創業100年以上の歴史を持ち、その伝統の味は世代を超えて地元の人々に愛されてきた。桜の花が舞い散る春の日、店の入り口には新鮮な和菓子が美しく並べられ、甘い香りが通りを包んでいた。
しかし、その穏やかな風景は一瞬にして暗転する。和菓子職人の高田一郎が店の奥で倒れているのが発見された。彼は顔を蒼白にし、苦しみながら息を引き取っていた。検死の結果、毒が盛られていたことが判明し、同時に大切なレシピノートも消えていた。
「花菓子屋」はその日から、恐怖と混乱の中に巻き込まれた。
朝の光が商店街を柔らかく照らす中、香織と涼介は花菓子屋に到着した。店の前には警察の車両が停まり、黄色いテープが張られている。店内は普段の賑わいを失い、静寂と緊張が漂っていた。
香織は深呼吸し、「これは大変な事件ね。高田一郎さんは、この店の魂とも言える存在だった。」
涼介がうなずき、「そうだね。彼のレシピノートがなくなったというのも、不自然だ。」
二人は店内に入り、店主の高田美代に挨拶した。彼女の顔には深い悲しみが刻まれ、その目には涙が浮かんでいた。
「高田さん、お悔やみ申し上げます。」香織が静かに声をかけた。「私たちが必ず真相を解明します。」
高田美代は声を震わせながら、「ありがとうございます。一郎は店の命とも言える存在でした。彼のレシピノートもなくなってしまい、これからどうすればいいのか…。」
「そのレシピノートには特別な内容が?」涼介が優しく尋ねた。
「はい、一郎が長年かけて作り上げた独自のレシピが全て記されています。それを盗んだ者が犯人かもしれません。」高田美代が答えた。
香織は店内を見渡し、「一郎さんが倒れていた場所を見せていただけますか?」
高田美代は頷き、香織と涼介を奥の厨房に案内した。そこはまだ事件の痕跡が残り、無言の証拠が彼らを待っていた。香織は慎重に周囲を調べ、涼介は一郎の作業台に目を向けた。
「ここで何かが起きたことは確かだわ。」香織は低く呟いた。「何か手がかりがあるはず。」
その時、涼介が目を細めて一つの小瓶を見つけた。「これは…食材に使われる調味料のようだが、中身が少し減っている。これが毒の元かもしれない。」
香織は頷き、「警察にこれを渡して、分析を依頼しましょう。そして、他の職人たちにも話を聞いてみましょう。」
香織と涼介は店内の他の職人たちに話を聞くことにした。彼らは緊張した様子で、次々と証言を提供した。中でも、一郎の助手だった若い職人、佐々木拓也が気になる存在だった。
「一郎さんは尊敬する師匠でした。あんなことが起きるなんて…。」佐々木が語る。
「最近、何か変わったことはありませんでしたか?」香織が尋ねる。
「実は、数日前から店の周りをうろつく不審な人物を見かけました。背の高い男で、いつもサングラスをかけていました。」佐々木が思い出すように答えた。
「その男について、他に何か分かることは?」涼介が続ける。
「特に思い当たることはありませんが、何度か店の裏口に近づいているのを見ました。」佐々木が答えた。
香織は思案顔で、「その男が事件に関与している可能性が高いわね。私たちも店の裏口を調査しましょう。」
二人は店の裏口に向かい、注意深く周囲を調べ始めた。涼介が何かを発見し、香織に声をかけた。「見て、ここに何かが落ちている。」
それは、一郎のレシピノートの切れ端だった。
「これは…間違いなくレシピノートの一部ね。」香織が興奮気味に言った。
「この周辺をさらに調べてみよう。」涼介が提案した。
二人は周囲を丹念に調べ、レシピノートの他のページが風に舞っているのを発見した。それを追っていくと、直ぐ隣の不審な倉庫を発見した。
「ここに何か重要な手がかりが隠されているかもしれない。」香織が決意を込めて言った。
二人は倉庫の中を調査し、真実に迫るための新たな一歩を踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます