第4話 竜と狼

 もう一度状況をしっかりと確認する。


 まずここから300メートルほど先の近距離で白いオオカミと赤いドラゴンが鬼ごっこしてるのは間違いない。


 そして、俺と結界までの距離はドラゴンが吐いたバカでかい火の玉の爆風のせいでだいたい120メートルほどに伸びている。


 これだと全力ダッシュしても17秒はかかる。


 ぱっと見るにあの二匹はかなり速い速度で走っている。


 時速60キロは出てる感じだ。


 これだと俺が結界に向かってる途中に衝突する可能性のほうが高い。


 もし、あの白オオカミが俺が走る方向と逆方向、つまり結界から離れる感じで走ってくれたらおそらく逃げることができるだろうし、実際そうしてくれそうな雰囲気がある。


 ただ、さっきの火の玉を俺に向けて吐いてきたらそんなもの関係ない。


 ていうか大前提として、そんなことをしてくれる優しいやつを見捨てて生き延びるほど俺は腐ってない。


 それに家の近くにこんな危険モンスターがいる状況も正直いやだ。


 ……………


 だったらもうすることは決まったな、どうにかしてあのドラゴンを退する。



 とはいえ、できることはかなり限られている。


 この短時間でドラゴンに対して意味があり、尚且つ俺ができること…


 やっぱりここに大量にある木を使ってドラゴンを押しつぶすことか。


「もうこれ以上考えてる時間はないか…」


 もうすでに、ドラゴンたちがかなり近づいてきている。


 急いでドラゴンを潰すためのトラップを作る。


 と言っても、ある一点の方向から見て、木を横に半分よりちょっと多く切るだけだ。


 そうして20本くらいの木に仕掛けを作っているとドラゴンたちがもう目と鼻の先までせまっていた。


 ス〜〜ウ


!」


 大きな声でオオカミに向かっていうと意味がわかったのかこっちに走ってくる。


 ただ、ドラゴンの尺に触ったらしく、今度は俺に向かって火の玉を吐き出してきた。


「おいおいおいおい

 ふざけんじゃねーぞマジで。」


 そう毒を吐きながら勢いよく斜め後ろに跳ぶと火の玉は俺にかするくらいギリギリの場所を通過して50メートルほど向こうの木にぶつかって爆発した。


「こんな攻撃してくるドラゴンもこえーけど、この火の玉を喰らっても平然と立ってる木に方がドラゴンより何十倍もこえーな。」


 この戦いを乗り越えたらどれだけの耐火性を持ってるか調べてやる、

 そう思いながらさっきの火の玉でできた砂埃に紛れてドラゴンが木に潰されるであろう場所の横に来ていた。


 そうしてこっちの準備が整ったのと同時に白オオカミが木が崩れてくる予定の場所を通り過ぎるのが見えた。


 しかもご丁寧にそこで少し減速してるな。

 完全に俺が何をしたいかわかってる、頭良すぎだろ!


 そしてそのすぐ後にドラゴンがトラップのポイントに入ってきた。


 ドラゴンが走る振動によっていい感じに木が崩れ始めた。


 減速した白オオカミの行動もあってかドラゴンは倒れてくる木から脱出できず、そのでかい胴体に20本近い木を受けた。


 とは言え、流石ドラゴン。


 20本近くの木の下敷きになっても死ぬけはいはない。


 むしろ怒って元気になったような気がする。


 …しかし、これはチャンスだ。


 怒って元気になったとは言え、あれだけの木に潰されたら隙ができる。

 そう思った俺はドラゴンに向かって走り出す。


 すると、ドラゴンが起き上がると同時に上にあったトラップに使った木が落ちてきた。



 だが俺の斧は木を簡単に切ることができる。


 自分に当たりそうな木を数本切りながらドンドン進む。


 するとドラゴンの足元までやってきた。


 よく見ると羽が破けていたがそんなこと関係ない。


 俺は素早く人間で言うアキレス腱のところを斧で切りつけた……が俺の斧はドラゴンの鱗をを少し切っただけで止まってしまった。


「はあ?」


 我ながら物凄く情けない声だったと思う。


 ただそんな感想が思いつく前に俺はドラゴンが下から振り上げた手に巻き込まれて上空に上げられてしまった。


 が、不思議と痛みは感じない。


 よく見ると白オオカミが白く光っている。


 おそらく治癒魔法でもかけてくれたんだろう。


 なぜオオカミが魔法を?みたいな感想、今の俺にはどうでもよかった。


 ここから結界内に逃げるには俺がどうにかしてこのドラゴンを一時的に動けないようにしなければならない。


 そう思った俺は死に物狂いで斧スキルを使った。


「スキル、〈かぶとわり〉!」


 そう言うと、俺の体は空中で一回転し、俺と一緒に巻き上げられたドラゴンの方へ向かって行く。


 対するドラゴンはさっき振り上げた手を俺に向けて振り下ろし、尖った爪で俺を串刺しにしようとしている。


 そうして俺のかぶとわり中の斧とドラゴンの爪が激突した。


 さっき鱗すら切れなかった俺の斧が弾かれる、ドラゴンだけじゃなく俺自身も内心そう思っていた。


 だが、俺の斧はと同じようにドラゴンの爪を切り落とした。


 しかも、それだけでは俺の斧の威力は弱らず、そのままドラゴンの腹の一部と左足の半分を切り落とした…いや切り落とせてしまった。


「ギャアアアアアアアアアアア」


 ドラゴンがこの世の中終わりかと思うほどでかい声で叫び出す。


 逃げるのは今しかない!


 そう思った俺は白オオカミに結界の方を指差して逃げるように指示し、俺自身も結界に向けて走り出す…はずだった。


 俺が足を一本進めると前世含め、今まで感じたことのない頭痛と酔いが回ったきた。


「な…んだ、…これ。」


 視界がぐるぐるしてる、状況確認しようにもまわりの様子がよくわからない。


 そんなこんなで俺が何もできずにその場に留まっていると上から明確な殺意を感じる。


 周りがよく見えないがなんとなく怒ったドラゴンが俺を踏み潰そうとしているのがわかった。


 どうにかしようにも俺自身動けないし考えもまとまらない。


「まあ、あのオオカミが逃げられたのならいいか。」


 そんな諦めに近い感情を抱きつつ何もできないでいるとドラゴンに踏まれる寸前で俺を白い何か…いやさっき結界に向けて走り出していた白オオカミが助けてくれた。


 うん。


 向かってる方向も完璧だしかなりのスピードで走ってるから間違いない。


 ただ、持ち方が…今多分服の後ろ襟を咥えて走ってるだろ?


 足が引きずられてめちゃくちゃ痛いんだわ。


 …………


 なんか細かいことは気にするな、みたいな目をオオカミに向けられた。


 そういえば短時間しか経ってないのに頭痛と酔いがだいぶ楽になった。


 これなら最低限の行動は1人でできそうだ。


 そんなことを考えている時、「ドラゴンどうなったんだろう」、ふとそう思い後ろを見てみるがドラゴンは追いかけて来ていなかった。


 おそらく、俺に足をやられたせいで走れないんだろう。


 羽もボロボロで飛べそうにないし、今のドラゴンに移動手段はない。


 そう安堵した瞬間、ドラゴンが血走った目をしながらこっちに向けて大きく口を開け始めた。


 その口の中には当たり前のように火が集まっていく。


 しかも今までの大きさとは比にならないおおきさだ。


 オオカミもそのヤバさに気付いたのか、俺をおもいっきり前に投げた。


 ここからは自分で走れってことだろう。


 確かに頭痛も酔いもだいぶ回復して自分で動けるようになったが、みたいに上に乗って走ってみたかったので残念……って、そんなこと考えてる場合じゃねえ。


 俺はすぐに考え事をやめ、地面に着地したのと同時に死に物狂いで走り出す。



 しかし、こんな状況なので少し後ろが気になり振り返ってみる。


 オオカミが俺のすぐ後ろを走っていて安心したが、そのさらに後ろで問題が起きた。


 我慢の限界だったのかドラゴンが直径2メートルはある以前とは比べ物にならない火の玉を吐き出したのだ。


 ホントならすぐさま前を向いて走らないといけない…頭ではわかっているがそうできない。


 今までの火の玉は木に当たると爆発して、木そのものになんの影響も及ぼしてなかった。


 そう、木をになんてしてなかったのだ。


 ……………


「ガウウウ!」


 そうして俺が目の前のことを理解できないでいるとオオカミが俺に向かって吠えてきた。


 ハッとした俺は再び前を向いて走り出す。


 が、さっきの木が灰になるところを見てしまったせいでめちゃくちゃ怖い。


 俺たちは結界に向けて全速力で走っているがドラゴンの火の玉のほうがスピードは速い。


 実際に後ろを振り向かずとも火の玉が近づいてくるのを背中がどんどん熱くなってきていることによって感じる。


「やばいやばいヤバいヤバい!」


 もうすぐ後ろに火の玉が来ている。


 結界にはまだ入れていないがもうすぐそこにある。


 このまま走っても間に合わないと思った俺たちはそこから結界に向けて飛び込んだ。


「うおおおおおおおお。」


 俺たちはで結界に入ることができた。


 俺たちが入って1秒と立たず結界に火の玉が当たって爆音を発しながら爆発する。


 ……………



 本当にギリギリで助かって安心したのか、今までの疲れが出たのかはわからないが俺はまだ爆音の余興のあるその場で気絶してしまった。



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「う、う~ん…」


 目を開けると、俺は自分で建てた豆腐小屋の中にいた。


「うがぁ…」


 体を起こそうとすると体の節々が悲鳴を上げてうまく起き上がれず、変な声が出てしまった。


 すると誰かの足音がこっちに近づいてくるのが聞こえた。


 この結界に誰かいるとは思えず、とっさに斧を出して戦闘態勢になろうとしたが、ドラゴンを切った後と同じような頭痛と酔いが回り斧を出すことができなかった。


 そうして頭痛と酔いのせいでフラフラしていると足音の主が家の入り口からヒョコっと顔を出してこっちを見ている。


「えっと、大丈夫ですか?」


 俺がうまく立てずにいると白い髪で頭にオオカミの耳がついている獣人が俺にそう尋ねてきた……その身になんの衣装も身に着けていない状況で。


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作者 スローライフで最初に登場するキャラって大抵獣人だよな。

女神 みんな好きなんじゃないですか?

作者 そう、自分も好きなんですよねー

女神 気持ち悪いですね。

作者 いや、辛辣だな!

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