第47話 戦いの果て

「あぁ……なにもかも無くして、自分の命さえも失って、ようやくだがな……」


 自嘲気味に語るその言葉……実際、今になってようやく振り返れているのでしょう。


 それは彼自身の問題です。


 向き合うなら向き合えばいいし、逃げ出すならそれでもいいと思います。なにせもうここは冥界なのですから。


 だから私は彼を責めたりはしません。


 もう十二分に苦しみ、そして穢れは払われたのですから。


「ようやくでも、それでも気付けたなら良かったのではないでしょうか?」


「怒っていないのか?」


「何に対してですか?」


「その、全てだ。僕はキミに酷い扱いをしたし、こんなところに来てもまだ邪魔していた」


 本当に憑き物が落ちていますね。


 まさか今になって幼い頃のように話せるようになるとは思いませんでした。


 この際ですからしっかり話しましょう。


 私の心残りも解消してもらいましょう。

 

「正直に言って、パーティー追放はむかつきました」


「……そうか」


 といっても、それだけなのですけどね。



「ごめんなさいは?」


「すまない……」


 ふぅ。ようやく解消しました。



「はい、謝罪を受け取りました。以上ですわ」


「はっ?」


 なぜそんなに驚いた顔をされるのでしょうか?


 そもそもライエル様が愛人も作らずに人生を終えるなんて甘い考えはもともと持っていなかったのです。


 だから別に浮気や愛人なんかは気になりません。


 なので、私を追放した後、誰と一緒に探索しようが特に気になることはありません。


 それに、私たちの探索の邪魔をしたということもありません。


 それこそ、ハルガラヴェスに関してはおびき寄せて倒せるきっかけをもらったとも言えます。



「あぁ、ラオベルグラッド王国に黒い影のモンスターを放ったことは迷惑でした」


「すまない……」


 もうこれで完全に解消しましたわ。


「……それだけか?」


「えぇ。以上ですわ」


「えっ?」


 だから、なぜそんなに驚いた顔をされているのでしょうか?


「僕はキミに難癖をつけたり、迷惑をかけたり、その……いろいろしただろ?」


「特に?難癖はあったかもしれませんが、迷惑と感じるものはありませんでしたわ」


「……」


 なぜそんなに落ち込んだ様子なのでしょうか?


 泣き出しそうな顔はやめてほしいです。



「僕はバカだったんだな……キミに拘って……」


 実は好きだったからとかもやめてくださいね。

 それはさすがに……。


「子供だった。なにを張り合っていたんだろうな。ただの子供の癇癪だ」


「あなたは結局のところ無理をして探索したせいでメンバーには迷惑をかけたかもしれませんが、誰も殺していませんし、強い怒りや執念を払うこと以外に地獄に行くほどのこともしていないように思います。だから、私は救えるなら救いたいと思っていたのでハルガラヴェスのときは聖属性魔法を使いましたし、今回も協力したのです」


「エメリアの想いはわかった。また、ライエルの罪が軽いのはその通りだ」


 そこへ神様が割って入ってきました。


 さっきまで私があけた穴を調査されているようでしたが、もういいのでしょうか?



「ただ、転生させるには想いが強すぎるし、天国に送るわけにもいかんしな。ということで放置している間に無茶をしおったから、しいて言うならその負債が残っているくらいだった」

 なるほど。看守さんたちの手を煩わせたり、冥界の門で通行の邪魔をしていたということくらいですか……。


「なので、しばらくの間は冥界で働いていけ。負債を返し終わったらどこかに転生させてやる」

 処置の重さはよくわかりませんし、ここで働く意味も理解できていませんが、ずっと地獄の中で喚き続けているよりはよい未来なのではないでしょうか?


「寛大な処置をありがとうございます」

 そう言ってライエル様は神様に頭を下げました。



 頭を下げている姿をはじめて見たかもしれません。



「エメリアの子供にでも生まれてみたいな……」

 そして驚く私をよそ目にとんでもないことを呟きやがりました。


 ないないないないないない。

 無理です。

 私にライエル様を育てるなんて絶対無理です。

 


「つつしんでお断りします。私にはすでに子供がおりますし、これ以上生む予定はありません」


「くっくっく。そうか、おめでとう」

 慌てる私に対し、ようやく表情を取り戻して悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべています。

 まさか……


「くっ、性格の悪いことを。私はレオと仲睦まじく生きていくので子供は生まれるかもしれませんが、あなたの魂が入ることは拒否しますわ!」

「生む予定はなかったのではないか?」

「くぅ……もう!ライエル様!!」


 本当に、何年振りかわかりませんが、まだ会話して、ふざけ合うこともあったルーディア大陸での探索を思い出しました。


 懐かしいですわ。



 あの頃はまだ楽しかったですわね。


 きっとすでにスーメリアと浮気していたと思いますし、私があれこれ指摘するのを嫌がっていたのだと思いますが、それでもまだ。




 人生は一歩でもどこかで踏み間違えると、本当にびっくりするほど変わってしまいますね。


 私も子供たちには口を酸っぱく……したら嫌われそうですが、懇切丁寧に教え込むことにしましょう。


 その後、神様からご褒美を頂き、改めて冥界で職に就いたライエル様に挨拶して私はラオベルグラッド王国に……レオのもとに帰りました。

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