第29話 国王の懺悔
side バルグート王国国王
「まだあれは見つからんのか?」
国王は苛立ちを押さえつけながら騎士団長に問う。
既に息子で王子であったライエルに切り落とされた腕はくっつけて魔法で回復している。
「ペリオリア侯爵から報告が来ておりますが、それ以外は何も……」
ペリオリア侯爵は、ライエル元王子が来たこと、スーメリアを連れてどこかへ行ったこと、そしてスーメリアをペリオリア侯爵家の籍から抜いたことを王宮に報告していた。
侯爵家の手勢では勇者でもあったライエル元王子と戦うわけにはいかず、捕縛などはできなかったと。
「至急、エメリア殿に連絡を送れ」
国王は当然の指示をする。間違いなくライエル元王子はエメリアの元に向かうだろうから。
「エメリア殿に?なぜです?彼女はもう、他国に嫁ぐ身。バルグート王国の内情をあまり与えるべきではないのではないでしょうか?」
しかしこの期に及んで騎士団長はそれを拒否しようとする。
国王をなだめるような表情で我が身の保身に走った。
「バカ者!ライエルが狙うとしたら逆恨みしていたエメリア殿しかおらぬ!国家の恥など気にしている場合ではないのだ!」
当然ながら国王の怒りに触れる。
その頭にあるのは、こやつらはもうダメだという思い。
ライエル元王子がロデリグ大陸のラオベルグラッド王国まで赴いて結婚式を挙げようとしていたエメリア殿に斬りかかりました、などということにでもなったらせっかく築いてきたバルグート王国の名声は地に落ちるのだ。
「しかし!?」
そんなことが起こるという想像力も危機感もない騎士団長は、ただただなんとか自らが再び有利な立場に戻るため、ことを荒立てないためにライエル元王子への温和な対応を引き出そうとしている。
そんなものは国王の頭の中から完全に排除されているにもかかわらず。
「もうよい。そなたは職務怠慢で謹慎だ。副騎士団長!」
「はっ」
「なっ。やめろお前たち、放せ!国王陛下。あんまりです。私は国のことを思って……」
国王の言葉に従い、副騎士団長は部下に指示して騎士団長を拘束し部屋から引きずり出す。
騎士団長は最後まで忠誠を叫んでいたが、白々しすぎて誰の耳にも届かなかった。
そして副騎士団長は部下に命じてギルドにエメリアへの伝言を頼み、自らはライエル元王子の探索を指揮する。
「ワシはあれを甘やかせすぎたのだろうか……」
国王は夜、一人自室で思いを巡らす。
「それとも、教育を怠ったのか……」
魔族の侵攻に晒されながらも周辺国と協力した防御体制を築き上げ、さらには勇者パーティーを結成させて遠征させた。
このパーティーがルーディア大陸の魔族を束ねる四天王ダーウェルドを倒したところまでは良かった。
その直後にライエル暴走してエメリアを追放するとは予想だにしなかった。
自由奔放なライエルと、しっかりもののエメリア嬢。
良い組み合わせと思っていた。エメリア嬢が優秀で、かつライエルに気兼ねなく様々な主張をして正していると聞いて、より安心していたのだ。
そのバランスが、ダーウェルド討伐と、その直後のロデリグ大陸攻略時のエメリア嬢のたった一度の失敗で崩れてしまったのだろう。
今さら思い返しても仕方がないが……。
頂点からの崩落……。これにライエルは耐えられなかったのだ。
自ら、命を懸けて魔族を倒す、民を守る、世界を導く……そんな想いを抱えていたのかもしれぬ。
「ワシは国王失格だな……」
ワインを煽るように飲み干し、グラスを投げ捨てようとして、思いとどまった。
それでも逃げるわけにも、投げ出すわけにもいかない。
エメリアが各所で魔族を倒し、闇の魔力を払い、人の大地を解放して行っていることで、国家としての未来は明るい。
エメリアは嫁ぐまではバルグート王国に尽くす、魔族の四天王と魔王の魔力の残滓を倒すまでは結婚しないとまで宣言してくれたのだ。
あの娘を、本当の娘としたかった。
だが、エメリアを産み、育てたのは王家ではなくノーザント公爵家だ。
協力をありがたく受け取りつつ、いなくなった後のことを考えなければならない。
幸い、ディルクはエメリアにくっついて世界を回り、知己を広げている。
彼だけは離すわけにはいかない。
ライエルがディルクをモンスターの前に置き去りにしたと聞いた時には怒りを通り越して肝が冷えたが、彼もバルグート王国を捨てるという選択はしなかった。
魔族との戦いが終結したら、ディルクの実家のハルボス伯爵家は侯爵になることが決定している。
それだけの働きをしたし、その程度のことをしなければ他国の介入を許すだろう。
多大な貢献をしたにもかかわらず、バルグート王国は正当な評価もしないようです。一方、我が国であれば……。
などと嘯きながら近寄ってくる間者の姿が目に浮かぶ。
にもかかわらず抵抗する馬鹿どもがいるが、構っていられない。
ライエルのことと一緒にいっそ処分してしまおう。
そう決めた国王は副騎士団長やノーザント公爵など信頼できるものを集め、計画を練った。
この国の今後を導くこと。
力を蓄えておくこと。
ラオベルグラッド王国とは仲良くすること。
可能な限り良い状態にして次世代に継いでいくこと。
それが国王の責務と思い直し、ライエルの件を胸に刻み込んで前を向いた。
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