第7話 初々しいエピソード
side レオメルド
俺はレオメルド。
30年前までこのロデリグ大陸に存在した王国の王族だ。
もうない国だがな。
この大陸は今、魔族の巣窟だ。
かつて北の海から進行してきた魔族たちに蹂躙され、ラオべルグラッド王国は地図から消えた。
国王だった祖父をはじめ、多くの親族が魔族に喰われた。
俺の父は、その悲劇の中で王妃だった祖母によって逃がされた。
逃げた村で生まれた俺は、ずっと戦ってきた。
その村の人たちを守るために。
俺はひたすら戦い続けた。
物心ついてからはずっと。
戦いの中で戦いを学び、さらに戦ってきた。
このまま生きる限り戦って、最後は魔物に殺されると思っていた。
ずっと1人で。
そんな俺のもとに、朗報が届いたのだ。
なんでもルーディア大陸で人間の勇者率いるパーティーが魔王軍の四天王の1人・ダーウェルドを倒し、大陸を魔族の手から解放したらしい。
さらにそのパーティーが転移の魔道具を使ってこのロデリグ大陸にやってきた。
神官たちがずっと転移の魔道具のある神殿を守ってきたことがついに報われたのだ。
勇者たち自体は一度やってきて魔の森で多少戦闘をした後に戻っていった。
ルーディア大陸とは勝手が違ったらしく、準備を整えて戻ってくると言ったらしい。
この大陸のために戦ってもらえるのはありがたい。
もしかしたら他にも協力してもらえる人がいるかもしれないと思い立ち、俺は戦いの仲間を募るべく、ルーディア大陸に向かった。
転移の魔道具がある街はとてもにぎわっていた。
魔族の進行を受けて壊滅した祖国とは大きな違いだ。
羨ましかった。
そこでギルドに行き、父の形見のカードを見せるとギルド職員が奥の部屋を案内してくれた。
王太子だった父の情報はギルドに保管されていたためだ。
俺はそこでギルド長に状況を説明し、仲間を探したいと伝えたところ、ギルド長が探してくれるという。
なんとありがたい。
ギルド長は王太子としてこの国を訪れた父に会ったことがあると俺に告げた。
父のカードは転移の魔道具を使うのに必要だからきちんと返してくれたし、俺のカードも作ってくれた。
今後転移の魔道具を使う許可を得るための推薦状も書いてくれた。
そして俺は、紹介を待った。
そこで聞いたのは、ルーディア大陸の解放に貢献した精霊術師の女性の話だった。
とても優秀な人らしい。
そんな人が仲間になってくれるのだろうか?
そもそも勇者パーティーのメンバーかつ、公爵家の人間なのだろう?
しかし、顔をつないでもらうことに意味はあると思った。
そんな人であれば候補を紹介してもらえるかもしれない。
彼女たちがロデリグ大陸で活動するのなら、ともに魔族と戦うということもありうるはずだ。
俺には村があるから常に一緒にというわけではないが、俺だって20年近く魔族を斬り続けてきた。
俺はあまり人と……特に年頃の女性と会話したことがないから、そこは少し緊張するが……
と思っていたら、その精霊術師の女性は俺を一目見るなりどこかへ……いや、明らかに逃げようとした。
さすがに酷いのではないか?
これでも元王族だぞ?
さらに村の人々の命を背負っている。
話くらいは聞いてくれてもいいのではないかと思って、彼女の腕をつかんでしまった。
事情を聞いてみれば、彼女にとって辛いことがあったばかり。
そんなときに俺のような……その、ちょっと強面の男が詰め寄ったら、それは怖いだろう。
申し訳なかった。
しかし、彼女は素晴らしい人だった。
素直に謝ったら許してくれたのだ。
しかも協力してくれるという。
「レオメルドさんは私が一緒に行っても嬉しくないですか?」
首をかしげながらこんなことを言われた。
そんなことはまったくもってない。
「そっ、そんなことは。嬉しい……嬉しいぞ……」
嬉しいし、ありがたい。
「なら、嬉しい、ありがとうと言ってもらった方が、私は嬉しいですよ?」
彼女の笑みがまぶしい。
「……あぁ、すまな……いや、ありがとう。エメリアさん」
また謝りそうになってしまったが、間違いなく嬉しいんだ。
これで俺は魔族を狩りに行ける。
「ついでに、お髭を剃ってもらえたら嬉しいです」
今まで自信満々で気の強そうな女性の雰囲気だったのに、急におずおずとそう言われて、驚いてしまった。
「わかった……」
髭に思い入れはないので全く問題ない。
髭は嫌いなのだろうか?
俺は今日ここにもう一つ誓いを立てる。
たとえ俺は死んでも彼女を守ると。
もともとの誓いは村を守ることだった。
俺にとってはどちらも大切な存在だ。
彼女……エメリアとは一度別れる。
実家に説明するんだそうだ。
大丈夫だろうか。
大切な娘が俺のような人間とともに危険な場所に行くなんて、そもそも公爵家が許すのだろうか?
心配になってきた。
明後日の朝、ロデリグ大陸側の神殿で待ち合わせと決めたが、本当に来てくれるだろうか?
ピコ~~~ン
「ん?」
何の音だろう。
音が鳴ったのは俺のバッグの中……ギルドカードだ。
見ると、カードの右上の端が赤く光っている。
ギルドで聞いた話だと、通話と文字のやり取りができるんだったか。
紹介してもらえることに気を取られてあまり聞いていなかった説明を思い出しながら光っているところを押すと、カードに文字が表示された。
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差出人:エメリア
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レオメルド、こんばんは。
無事、お父様から了解を得たので、明日準備をして明後日朝ロデリグ大陸に向かいます。
ーーーーーーーーー
それはエメリアからの手紙のようだった。
きっと心配している俺を気遣って教えてくれたんだろう。
なんて素晴らしい人なんだ。
返事を書くのに手間取ってしまい、なんとか『ありがとう。きをつけて』と返したが、そっけなかっただろうか。
あまり眠れなかった。
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