第2章 魔王の魔力の残滓を追って
第25話 旅立ち
みなさん、こんばんは。
私、エメリアは今、ルーディア大陸の実家に戻っています。
これからどうするか……
選択肢は2つで、レオメルドと婚約してラオベルグラッドの王妃になるか、ディルクとともに次なる大陸に魔族を倒しにいくかです。
魔王を倒したものの、その力の最後の一部が逃げてしまったことで世界中から闇の魔力を払うことはできませんでした。
きっと残る四天王の誰かに力を引き継いだのではないかと予想しています。
それを倒さなければ私の旅は終わらない気がしています。レオメルドには申し訳ないですが。
前にもお話したと思いますが、私は、弟を魔族に殺されました。
それ以降、私はずっと戦ってきました。
もちろん、魔族を滅ぼすなどと大仰なことは考えていません。しかし、私はできることをしますし、仲間や家族は助けたいのです。なので、あの魔王の魔力の残滓だけは消しておきたいのです。
あれはきっとまた誰かに取り憑いて、その悪意を増幅し、再び魔族に君臨して災禍をまき散らすものを生むでしょう。
そんな気がしてならないのです。
なので私はアラグリア大陸への渡航の準備をしています。
10日ほど前、私は次なる旅立ちを決意してレオに伝えました。
「どうしても行くのか、リア」
「レオ。えぇ、私はあの魔力を追います。あれを倒さなければやるべきことが終わらないと感じるのです」
「そうか……」
心配そうにしているレオは私に優しいキスをくれました。なんて可愛いのでしょうか。少し決意が揺らいでしまいそうになるのを押しとどめます。
私は私のやるべきことを優先させてもらいます。行かなければ後悔しそうな予感があるのです。ごめんなさいね、レオ。あなたを誘うわけにはいきません。あんなに嬉しそうに復興の計画を話す村の人たちを置いて、『私についてきてください』なんて、言えませんし、言いません。
私は間違いなくあなたのもので、あなたのもとに帰ってきますので、その時には暖かく迎えてください。その時まで、私はラオベルグラッド王国とバルグート王国の名前を背負って戦ってきます。
幸い、私には多くの精霊様達がついてきてくれると言ってくれています。特に取り逃がしたと謝られていた地と冥の大精霊グラニテ様と、活躍する場がなかったと嘆いていた光と木の大精霊ヴェルディア様、それから押し込めたことで文句を言われていた光の精霊ルクシオン様、さらにカーバンクルがついてきてくれるそうです。
ありがたいことです。
そう言えば昔王宮で出会った剣の精霊様にお願いするのもいいかもしれませんね。
今思い出しましたが、魔族を嫌っていましたし、王妃教育を受ける私を励ましてくれました。
洗練された美しい様相の剣に宿ったあの精霊様はいまだにあそこにいらっしゃるのでしょうか……?
アホ勇者はそんな剣は知らないと言っていましたので、眠りにでもつかれたのでしょうか……?
ロデリグ大陸を出発する日の朝。
見送りに来てくれたレオの姪のミーナちゃんに、レオの従姉でミーナの母のリューナ、転移の魔法陣を守っていた神殿の長、そしてラオベルグラッドの守り神である銀の若木の精霊様が口々に私に声をかけてくれます。
「エメリアお姉ちゃん、いってらっしゃい!!!」
「エメリア様、頑張ってくださいね!」
「エメリア殿、どうかご武運を」
「精霊術師殿、こちらのことは任せて思いっきり戦ってきておくれ」
これから一度ルーディア大陸に戻り、そこから船でアラグリア大陸に向かう私は、皆に出発の挨拶をした後、転移の魔法陣のある神殿においてみんなに見送られています。
「それでは、レオ。行ってきます」
「あぁ……」
レオは渋い表情です。寂しがってくれているのでしょうか?
「ディルク、リアを頼んだ」
「はい。お任せを」
そして男2人で拳を合わせた挨拶をしていますが、すみませんディルク……もうちょっとだけレオに用事があるので返してもらいますね。
「ん?」
ちゅう~♡
ふぅ……ついつい周りの目線を気にせずレオの首に手をかけて情熱的に抱きしめて熱いキスをしてしまいました。
「リア!?!?!?!?」
真っ赤になって戸惑うレオもいいですね。
「レオまっかっか!」
「こっ……こら!」
レオは相変わらずミーナにからかわれています。
「それではみなさん、行ってきますね。なるべく早く残っている四天王を倒し、空へ逃げた魔王の魔力の残滓を倒して戻ってきますので」
私はみんなを見渡して宣言します。
みんなの表情を見で、きっとこの国が大丈夫なことを確信します。
「あぁ、信じて待っている。必ず帰ってきてほしい」
そこへレオが進み出て、言葉を返して……
ちゅっ
なんと彼の方からもキスをしてくれました。
不覚にも嬉しさのあまりよろめきそうになってしまいましたがなんとか堪えました。
やりますね、レオ。
無表情からの大人のキスはずるいですよ。
しかも角度的にミーナには見えない位置……。
私は名残り惜しくなる気持ちを奮い立たせ、転移の魔道具に触れて転移しました。
ディルクも彼らしくみんなに小さく黙礼してからついて来ました。
さぁ、次なる冒険の始まりですね。
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