第26話 別なる四天王撃破……名前を聞きそびれました

 世界に5つある大陸の中で最も小さいアラグリア大陸。

 そこでは人間勢力を魔族が戦いを繰り広げていた。

 

 そんな地に降り立った私とディルク。

 それに今回は光と木の大精霊ヴェルディア様と、光の精霊ルクシオン様、そしてカーバンクルがついてきてくれました。

 あのぉ、すみません、光が被っていますが……。


「ルクシオン、ついてくるのはお前である必要はなかったのじゃが……」

「なにを仰いますかヴェルディア様。そこのエメリアは私が守りますので、ヴェルディア様こそお帰り頂いても問題ありません」

 当然のごとく、ヴェルディア様とルクシオン様が言い争っています。

 私としてはどちらも強力な精霊様ですし、信頼していますのでありがたいのですが。


「言うようになったのぅ、ルクシオンよ。だが、そなたにこんなことをする力はあるまい」

「なっ……」

 ヴェルディア様がそう言うと、なぜかこの大陸に船でやってきたばかりのはずの私たちが、どこかのおどろおどろしい場所に転移してしまいました。

 まだこの大陸で誰にも挨拶していないというのに、少々勘弁してほしいのですが、あそこで玉座に座って呆けている魔族の方は見逃してくれるでしょうか?


「なっ……誰だ貴様らは!」

 ここが城なのか砦なのかはわかりませんが、自分の部屋に突然人間と精霊が現れたら驚くでしょう。

 

「なにやってんだよクソおやじ!どう考えてもこの大陸の魔族の本拠地じゃないか!」

 まぁ、ルクシオン様の言葉の通り、同じように私たちも驚いていますが。

 船旅に1か月もかかったのに、ボスの元まで5分で辿り着くというのはどういうことなのでしょうか?

 そんな小説があったら私なら投げ捨てますが、どうか皆さんお許しください。

 

「いちいち歩いて探索など面倒じゃろう。どうせたいしたことない相手なのじゃから。ほれ、戦え」

 ヴェルディア様は旅の醍醐味をご存じないようですね。

 人間と魔族が拮抗していると聞いていたので、人間側の要望をしっかりと聞いて立ち回ろうと、船の中で色々考えていたのですが……。


「ふざけおって!消えろ、ダークフォール!!!」

 魔族の方は当然の反応として強力な闇魔法を放ってきましたが、こちらは光の精霊ルクシオン様と、光と木の大精霊ヴェルディア様ですので、当然その魔法は届きません。

 こちらは何もしていないように見えるのに消えてしまった魔法の行方を唖然として見守る魔族の方の様子に、申し訳なさが込み上げてきました。


「私のエメリアを攻撃するとは、死にたいようだな。死ね!」

 そんな短い間に"死"を連呼しなくても、と思っているうちにルクシオン様の光の魔法が魔族の方を直撃して消滅させてしまいました……。

 えっと……去りましょうか。


「ふわぁ~あ。終わったようだのぅ。では行くとしよう」

 なんとこの短時間で昼寝していたヴェルディア様が再び私たちを転移させます。

 行った先はさっきの場所。

 

「あぁいたいた。エメリア様、この港のギルドに相談してみたらどうかと船長に言われましたので、行ってみますか?」

 先に船を降りて聞き込みをしてくれていたディルクが戻ってきますが……。

 すみません、もうこの大陸に用がなくなってしまいました。



 そういえばあの魔族のお名前を聞き忘れましたね。

 あの威容に魔力量から想像すると、四天王の1人だと思うのですが……もう過ぎたことは仕方がありません。

 じきにこの大陸も闇の魔力から解放されるでしょう。


 そもそも魔族の支配下に落ちていなかったので、そこまで濃い魔力に覆われてはいないのですぐに……あぁ、もう晴れてきましたね。


「ん?闇の魔力が消えていく……えっ?どういうことだ?」

 ディルクが混乱しています。

 そしてなぜかヴェルディア様もルクシオン様も消えています。


 と思ったら、私の中で寝ています。

 もしかしてだんまりを決め込んで説明を全て私にさせるつもりでしょうか?

『『ぎくぅっ』』


 私は無理やりお二方を顕現させます。


「はい、ごめんなさいは?」

『すまないエメリア。このクソおやじがとんでもないことをしたせいで、かつあの魔族が攻撃をしてきたので消し飛ばしてしまったのだ。許してほしい』

「はい、わかりました。もちろん倒しに来たのですから倒すことは悪いことではありませんし、攻撃されたので仕方がありませんね」

 素直に謝ったルクシオン様はよし、です。


 私はもうお一方の方を振り向きます……。

『あの、その、なんじゃ。エメリアの力を持ってすればすぐに終わると思うてのぉ……』

「……」

『すまんかった。早急に事を進めてしもうて』

 なにか言い訳を考えられていたようですが、笑顔で見つめると謝ってくださいました。


 まぁ、何度も言いますが倒すことは悪いことではないのです。

 それに考えていたことを説明していなかった私にも責任はあるので、今回は許しましょう。

 

「……謝罪を受け取ります。ただ、私たちのためとはいえ、人間世界は少しややこしいですので、今後はお願いした時だけ力を振るって頂けると助かりますわ」

『あいわかった』


「えっ?どういうことだ?エメリア殿。え?本当にもう倒したの?どうやって?」

 混乱するディルクの腕を引いて、私は再び船に乗り込みました。

 また1か月の船旅です……。


 なお、ヴェルディア様にはアラグリア大陸の有力な精霊たちに四天王を倒したことを喧伝してもらい、私は港のギルドから大精霊の力で四天王を倒したことを各ギルドに伝えてもらうようお願いをしておきました。

 ギルドではあまり信用されていなかったと思いますが、時が経つにつれて理解してもらえるでしょう。

 私の心の中は『すみません』でいっぱいでした。

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