第36話 黒い影との遭遇

side 国王レオメルド


「ここがギーフェンドか……」

 騎士団員を引き連れた俺は馬に乗ってここまで駆けて来た。

 約半日の旅程だが、半魔の馬を使っており、普通に歩けば数日かかる道のりだった。


「はぁ、はぁ、レオメルド様……ようやく追いついた……はぁ、はぁ」

 遅れて騎士団員たちがやってくる。

 出発前には国王である俺を護衛すると強い決意で任務に入ったが、いざ行軍が始まるとその表情は一変。

 なんとか俺についていこうと必死で馬を駆って追いかけるのが精いっぱいだった。

 道中のモンスターは全て俺が討伐してしまったが、そもそも走るのに精いっぱいだったから問題はないだろう。


 俺か?俺はまだこの程度でへばるほど訛っていないし、久しぶりのモンスターとの戦いは楽しかった。

 行かせてくれた叔父さんたちに感謝だな。


 俺はギルドカードを取り出してエメリアにメッセージを送っておく。


 ーーーーーーーーー

 差出人:レオメルド

 ーーーーーーーーー

 愛しのエメリアへ。


 レオメルドだ。無事にギーフェンドに着いた。

 道中は特に問題なかった。

 これから街を探索して夜を待ち、件のモンスターの調査を行う。

 夜はまだ冷えるだろうから、風邪をひかないように。

 

 ーーーーーーーーー


 これでよし。

 思えばこの5年でだいぶ気軽にメッセージを送れるようになった。

 少し恥ずかしいが、書かないとエメリアが拗ねるしな……。

 

 そろそろ騎士団の息も整っただろうか。


「よくついてこれたじゃないか。本番はここで夜に出るという黒い影のようなモンスターだ。休憩して夜を待とう」

「はっ!」

 俺が言葉をかけると、騎士団員たちはなんとか気力を振り絞って敬礼してくれた後、へとへとになった体で廃墟となっている街の外に野営の準備をしてから全員座り込んでしまった。

 一応、何人かは座るにとどめて周囲を見渡しているので、警戒は怠っていないらしいな。


 それを見ながら俺は廃墟を探索するため歩き出す。

 暗くなる前に街の状況を見ておく必要がある。

 

「つっ、ついて行きます」

 すると1人の若い騎士が同行を申し出たので、2人で歩いていく。

 他の10人はまだ立ち上がれないらしい。




 レオメルドと若い騎士はギーフェンドの街を歩く。

 そこら中で破壊の跡が見受けられる古い街並み……。

 

 叩き潰されたり、燃やされたり、突き破られたり……。

 おそらく様々なモンスターがこの場に集まり、逃げ惑う人々を尻目に破壊の限りを尽くしたのだろう。

 いや、きっと人間もたくさん殺されただろう。


 残念なことに、遺された死体は全て死霊となって去ったらしい。

 もともとこの街の長をしていたものの息子は、生き延びた人々を連れて集落を作って防衛し続けていた。

 彼が言うには、襲ってくるモンスターの中に、家族や友人、知り合いの死霊が混ざっていて、それで心を折られた人間も多いということだ。


 やはり魔族の所業は許せない。

 種族間の縄張り争いなので仕方ない面があるというエメリアの言葉も分かるが、俺は許せない。

 もちろん弟を失い、自らの手で魔王も、四天王もみんな倒したエメリアのことを責めるなんてことはあり得ない。

 彼女こそ人類の希望で、魔族の悪夢だろう。


「レオメルド陛下。暗くなってきましたね。そろそろ戻りましょう」

「あぁ」

 若い騎士が空を見上げながら呼びかけてくれたので、俺は素直に従った。


 いいな、しっかりしている。

 体力さえついてくれば今後も連れて来よう。




 そうして夜……。


 俺と騎士団たちは軽食を取った後も寝ることなく、街の方を見続けていた。

 黒い影のようなモンスターというのがどういったものなのかはわからない。


 本当にただの影で、実際には何らかのモンスターなのかもしれない。


 しかし、魔法が効きづらかったという報告もある。


「あっ、あれ!」

 ふと1人の騎士が街の門の方を指さす。


 薄暗くて見えづらいが、なにかが動いているように見える。


「全員、構え!」

 今回の騎士たちの隊長が即座に掛け声をあげ、全員武器や盾を構える。

 魔法の準備もしているようだ。



 

 しかし、あれはなんだ?


 ゆっくりとまるで立ち上がるかのように上に伸びていく影……。


「馬が!」

 

 見ると、魔物の血が半分入っていて気性が荒い魔馬たちが手綱を噛み切って逃げていく。

 それでも今は気にしている余裕がない。

 

 影の大きさは門を超え、廃墟に残っているがれきの山を越えた……。


 あれは何かの影などではない。


 すでに、街で一番大きな建物も超えた。

 

 あれ自体がモンスターだ。




「全員聖属性か光属性の攻撃を放て!行くぞ!」

「「「おう!」」」

 俺は指示を出すと、魔法を使える騎士団員たちが魔法を放つ。


「セイントスラッシュ!」

 もちろん俺もだ。

 聖属性の魔法を纏わせた斬撃を放つ。


 


 しかし……



 影はまだ伸び続ける。


 魔法はなにも効果を発揮しなかった。


 魔法剣は影をはためかせただけだった。



 そして伸びきった影がこちらを向く。


 

 その顔には赤く染まった大きな目……。


 青黒い大きな牙……。



 なんだこいつは。


 さすがにこんなモンスターが毎夜出現していたらもっと緊急度の高い報告が上がっているはず。

 

「誰か目覚ましの魔法を使えるか?」

「はっ、私が。アウェイク!」


 しかし、その魔法は効果がなかった。俺は幻覚の類を疑ったが、どうやらあれが実態らしい。

 

「全員退避しろ!逃げるぞ!」

「「「おう!」」」


 そして俺たちは逃げた。

 朝になると消えるらしいが、どうだろうな。

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