第41話 冥界への旅立ち

side 王妃エメリア


 ようやくです。ようやく完成しました。

 これでもうメロディアレーゼ様の卑猥な魔の手に怯えることはなくなりました。


「ありがとうございます。闇の精霊シャドー様。感謝いたしますわ」

 目の前にいるのは私がお呼びした通り、闇属性の精霊であるシャドー様ですわ。


 もしいまこんな光景を見られたら、私が黒い影のモンスターを放っていると噂されてしまいそうなほど、おどろおどろしい雰囲気を放つ黒い闇属性の精霊様です。


 彼は昔、ルーディア大陸を攻略しているときに宿泊した施設でふと気になって物陰を覗き込んだら、そこに潜んでいた精霊です。

 あの扉の向こうから物音がすると言って、半泣きで慌てふためくライエル王子に起こされた私は不機嫌でしたが、結果的に優秀な精霊様と契約することができました。

 そう言えば姿を現したシャドー様の姿に驚いてお漏らしをされていたのを思い出しました。

 あの頃はライエル様も可愛かったですわね。

 

 なんて物思いにふけっているわけにはいきません。

 これからはこちらから仕掛ける番です。


 えっ?なにをしているのかですって?


 私は国中で発生する黒い影のモンスターについての調査をこの闇の精霊シャドー様にお願いしていたのです。

 そして今、その調査の結果を教えてもらっていたのです。

 私の目の前でふわふわと浮きながら念話で。


 調査ですが、シャドー様には、朝日を浴びて地面に消えていく影のモンスターを追ってもらったり、メロディアレーゼ様によって粉砕された影のモンスターの残骸が消えていく先を追いかけてもらって、どこへ行くのかを調べてもらっていたのです。


 その結果、影のモンスターは地面に潜った後、必ずとある場所に行っていたそうです。

 粉砕された残骸の方も、空気中で薄れて消えていくためわかりづらかったようですが、最終的には同じ場所に行っていたとのことです。


 

 そこは……


 なんと冥界です。



 

 生きとし生けるものが等しく死んだときに通る場所、それが冥界です。

 死したものは中空を彷徨って冥界に辿り着き、そこで生きている間の事柄について確認され、天国に行くか地獄に行くかの審判を受け、そして冥界を去って行くのです。

 そう言われている、あの冥界です。

 

 そんな場所の入り口に近い場所から魔力を使って黒い影のモンスターを生み出して地上に……このラオベルグラッド王国の各地に送り込んでいる異形のものがいたそうです。

 


「まさかそんな場所からこの国を攻撃していたとは。なにか強い恨みでも買ったのかの」

 ヴェルディア様はこんな風に言いますが、それも当然だと思いました。

 私たちは魔王を倒し、四天王も倒し、魔族や魔物からこの大陸だけではなく全ての大陸を解放したのですから。

 死んでいったものの中には私やこの国に恨みを持つものは大勢いたでしょう。

 


 そんな中の誰かが冥界の入り口に横たわって動けなくなりつつも、モンスターを操ってこの世界を攻撃し続けているらしいのです。



 そんなものがいても決しておかしくはない……これまでの私たちの行動を考えればそう思ってしまうものの、冥界という場所はとても厄介です。


 なにせ生者には手が出せない場所です。

 生きている限り、冥界に行くことはできません。


 でも、だからと言って誰かに死んでもらって冥界へ行って、この王国を攻撃している誰かを倒してこいなどとは言えません。

 行ったものは、そのまま死んでしまうからです。

 

 だからこそ、私が行くしかないと思うのです。

 私なら仮死状態にでもしてもらって倒してから精霊様達に引っ張ってもらえば帰ってこれるでしょう。

 精霊様たちなら私の送り迎えをしてくれることくらい、可能でしょう?


 そう主張したのですが、レオにもバラック大臣にもリューナさんにも反対されてしまいました。

 子供たちにも。



 レオ……覚えていてくださいね?

 子供を巻き込むのは反則ですわ!?卑怯ですわ!?

 私の目の前で可愛い子供たちを泣かせるなんて、許しませんからね?


「そうでもしないと君は無茶をするだろう」

「むぅ……」

 それは事実ですが、無関係のあの子たちを泣かしたのです。

 いくら抱きしめてキスしてくれても許しません。


「わかっているし、悪いとも思っている。それでも、このまま君を行かせて死なせてしまったら、あの子たちはずっと泣き続けるだろう」

「うぅ……」

 そんなことにはならないと言っているのに、なぜ聞いてくれないのでしょうか?

 心配?

 そんなことは分かっていますが、対処しないとずっと王国に黒い影のモンスターが降り注ぎ続けるのですよ?


 だったら可能性のあるものが倒しに行かなくてはなりません。

 私は母である以上に、この国の王妃なのです。


 責任があるのです。


 仮に何かあっても、私たちの子どもたちならきっといつか理解してくれます。

 あの子たちは例え幼くても王子と王女なのです。


 

 だから私は行きます。


 ベッドの中で眠らせたレオに静かに宣言し、子どもたちの寝顔を眺めながらその頬をなでた後、私は旅立ちました。

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