第5話 剣士レオメルドとの出会い

side 精霊術師エメリア

 

 スパ―――――ン

 グギャーーー!!!

「よし……」


 凄いですね。

 エルダーウルフ20匹をものともせずに切り伏せました。

 私は支援しかしていません。剣を振る音が爽快でした。


「そろそろ日が落ちる頃……村に戻ってもいいのだが、もしよければ野営して、明日もう少し遠くまで行ってもいいだろうか?」

「もちろんですわ。レオメルド、もともと計画は教えてくれているのですから、そんなに遠慮しなくていいですよ?」

 彼はそもそも計画を伝えてくるときにも彼は丁寧でした。

 私が高位貴族出身の女であることに配慮してくれているのでしょう。

 アホ勇者だったら何も言わずに好き勝手に進んで行って、罠とかにはまっていました。


「ありがとう。感謝する」

 ふふふ。ちゃんと私の話を聞いていますね。良いことです。


「えぇ。では食事の準備をしますので、少し休んでいてくださいね」

「さすがにそれは……」

 そう言えば一人でずっと戦っていたのでしたね。

 休めと言っても難しいでしょうか。


「えぇ。とは言っても敵が来る可能性もありますので、それに備えていていただけたら嬉しいです」

「わかった」

 彼の鋭利な雰囲気が私を突き抜けていきます。

 感知の範囲を広げたのでしょうね。

 安心感があって心地良いです。




「うまかった。ありがとう」

「えぇ。お口に合ってよかったです」

 私が準備した食事を全部食べてくれました。

 用意したと言っても探索に持ってこれるものなので保存食のパンと干し肉がメインですが、魔法も使って簡単なスープを作りました。

 

 それはもう美味しそうに、凄いスピードで食べられていく光景は楽しいものでした。


「あっ、ありがとう。今までこんな経験がなくて……」

「私もはじめてです」

「えっ?パーティーで探検していたんじゃなかったか?」

「えぇ、そうです。でも、全員食事はただ補給するだけ、といった感じでしたから。レオメルドみたいに美味しそうに食べてくれるのを見るのははじめてでした」

 アホ勇者は食事より色ボケでしたし、ディルクは無口、スーメリアはなぜか上から目線……あんなに頑張って食事の用意をしていたのがバカみたいですね。

 

「すまない。がっつきすぎただろうか?」

 申し訳なさそうにレオメルドが頭を掻いています。

 可愛い♡

 

「いえいえ。言葉の裏はありませんよ?用意したものを喜んでもらえるのは嬉しいのですから」

 私自身がちゃんと味のするものを食べたいので用意していたのではありますが、やはり感謝や礼は大事ですね。

 

「そうか。では、ありがとう……でいいのかな?」

「いいのかな?が余計ではありますが、いいですよ」

「あっ、すまない」

「また謝りましたね」

「あっ、すまな……いや、えーと」

「ふふふ」

「エメリア……」

 いけませんね。

 戦っているときはあんなに強くて落ち着いているのに、戦いから離れると女慣れしていない青年。

 ついからかってしまいます。

 

「レオメルド、あなたはずっとここで戦ってきたのですね」

「ん?あぁ、そうだ。最初は村を守るためだったんだが、見ての通りそこそこ強くなったから少しづつ範囲を広げてきた」

 剣を手に応えてくれるレオメルドの横顔はなかなかカッコいいのです。

 それに、そこそこなんていうレベルの強さではないように思いますが、きっと比較対象がモンスターだけだったんでしょうね。


「ルーディア大陸から転移してきた私たちは、ロデリグ大陸で人が生き残っているとは考えていませんでした」

「そうだったのか。神官たちが魔道具を使って聖域化していたからあの転移の魔道具のある神殿はずっと無事だった」

 転移した私たちの前に神官がいたことにまず驚いたのです。

 そして人の村があることも聞きました。

 聖域は広いものではなく、かつ聖域の周囲には魔物が増えてしまうので村は少し離して作ったそうです。


「こうして他大陸の人間と話しているなんて、少し前の自分には信じられないことだ」

 魔導ライトに照らされた彼の顔がこちらに向き、私を見ています。

 

 私としても、こうしてあなたに会えたのは悪いことではなかったと思えます。

 アホ勇者と離れられたのは気楽ですし、無理に合わせて政略結婚させられるよりよほど良い気がします。


 お父様も応援してくれましたし。

 どうも、王家とも話を既にしていて、謝罪も受け、婚約は解消し、賠償を受けたらしいですから、もう私は無関係です。

 

 私はこのあとレオメルドの話をたくさん聞きて満足です。

 エルダーウルフ100匹にその上位種であるアークエルフ2匹、そして無数のダイアウルフに囲まれたのに全部倒して突破した話は狂人の類に思えましたが……。

 

 出会ったときは正直に言って怖かったですが……、実はレオメルドも緊張していたようです。



 * * * * * *



 勇者パーティーから追放された私は少し自棄を起こしていました。

 それで、今まで貯めこんできたアイテムを売り払おうと、冒険者ギルドを訪れたのです。



「エメリア様……その、王子の……勇者パーティーを外れたというのは本当でしょうか?」

 ギルド職員が周囲に聞こえないように神妙な面持ちで聞いてくる。

 笑いものにするつもり……ということではないようですね。

 ちょっとムッとしてしまいましたが、事実ですし、程なく広まるでしょうから隠してもムダですね。


「はい……残念ながら……」

 自分では気にしていないつもりでしたが、言葉に出してみると詰まってしまいます。

 意外とショックだったのですね。

 私はこれでもあのパーティーのために努力をしてきたのですから、そのせいでしょうか。

 

 足を引っ張らないように支援や回復魔法の精度は上げてきました。

 精霊への依頼についても、大事な場面で断られないように、魔力だけではなく各精霊の嗜好なども調べて記憶してきました。

 アホ勇者でしたが、パーティーが失敗しないようにあえて厳しいことも言いました。

 ロデリグ大陸の魔の森で活躍できなかったのは事実なので、その対処のためについてきてくれる精霊と交渉もしました。


 なのに……



「失礼しました。実はエメリア様に協力を求めていらっしゃる方がいます。もし可能であればお会いいただけないかと……」

 ギルド職員が淡々と私の話を聞き、そしてこんなことを言いました。

 

「私にですか?」

 なかなか珍しいですね。

 私はこれでも公爵家の娘なので、普通は遠慮して声などかけてきません。

 

 物を知らない奴隷ならありうるかもしれませんが……。

 しかし、ギルド職員のこの言い方だと、ギルドが配慮する相手……つまり貴族でしょうか。


「はい。あなたの精霊術師としての腕を見込んで……」

 なるほど。

 私は腐っても高い魔力を持つ精霊術師であり、このルーディア大陸解放には大きな貢献をしました。

 ロデリグ大陸の攻略には役に立たないという話は出ているかもしれませんが、このルーディア大陸において、まだまだ必要とされているということでしょうか?


 これは……少しヘソを曲げてもいいでしょうか?

 悔しさが込み上げてきました。

 もう私を放っておいていただきたいです。

 誰かにいいように使われる気はありません。



「申し訳ありませんが……」

「失礼。エメリア・ノーザント殿だろうか?」

 断ろうとした私を遮って後ろから低い声がしました。


 私がそちらを振り向くと……








「すみません、失礼します……」

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