第4話 勇者ざまぁ② 敗走 ※残虐描写あり

side 勇者ライエル


「ライエル様、鑑定しました!あの大きいのはアークウルフというようです……エルダーウルフの上位種です……どうもつがいで活動する魔物の様で……エルダーウルフやダイヤウルフを率いる群れを作る習性があると……」

 今度はスーメリアが最初から鑑定するが、彼女は鑑定した内容を話しながら呆然とアークウルフを見つめている。


 これは……。

 

「行くぞ!撤退だ!!」

 僕は即座に撤退を選んだ。

 

「え?」

「はい!」

「……」

 あれは無理だ。

 2、3体ずつなら行けるがあの数は。

 ラーヴェは少し遅れたようだが、気にしてられない。


 僕らは全力で走る……



 が……

 

 

「あぁ……」

 スーメリアが転んだ。

 

「スーメリアさん!」

「なにしてる。急げ!走れ!」

 ラーヴェは気にしているが、止まったらダメだ。


 しかし……。




 グルォォオオォォオオオオオ!!!


 エルダーウルフだ……


 くそっ、回り込まれた。

 


「ラーヴェ!何やってる。魔法を放て!!!」

「無理ですよ、こんな魔力の濃い森でどうしろと!」

 どういうことだ!

 

「魔法を使えるんじゃなかったのか?」

「使えますが、私はエルフです。魔の濃い森では十分に使えませんよ。ここに来る前にちゃんと話したじゃないですか。勇者様は『僕が魔を払った後なら問題ないな』って仰って……」

 涙ぐんでる場合じゃないんだよ!

 

「うるさい!今そんな状況じゃないだろ!威力が弱くても使えよ!仲間のピンチだぞ!?」

 目くらましでも注意をそらすためでも何かやれよ!



「威力の弱い魔法を放ってもエルダーウルフには弾かれるだけです。さっき鑑定で見られたでしょう?勇者様こそ剣撃で敵を払ってください!」

 なんだと!???


「戦うしかない……」

 スタタタタタタタ……シャキーーーン!!!

 ディルクが走り込んでエルダーウルフを一刀両断する。

 

 くそっ、あのデカいのがどれくらい強いのかわからないが、やるしかない。


 幸い、走ってきたおかげでこの場に辿り着いているエルダーウルフは6体だけ。


「うぉおおぉぉおおおお!!!!」

「……」

 僕とディルクはひたすら剣を振る。

 弾かれても気にしている余裕はない。


「ヒール!」

「プロテクト!」

 そんな僕らをスーメリアとラーヴェが支援する。


 さっきは焦ったが、態勢さえ整えれば何とかなる。

 負けるものか!

 僕は勇者だぞ!!!


「スーメリア!さっき鑑定した時にあのアークウルフの特性には魔法反射はなかったんだな?」

 僕はアークウルフの先頭に備えてスーメリアに確認する。


「はい。アークウルフには魔法反射はありませんでした。あったのはつがいとの絆というもので、片方が死ぬともう片方が強化されるもののようです」

 スーメリアは淡々とただ鑑定した内容を口にしているが、その内容はとてもやっかいなものだった。

 


 そしてこいつら何匹いるんだよ。

 もう30匹以上倒したぞ!


「ヒール……あっ」

「おい!早く回復させろ!」

「すっ、すみません。魔力が……」

「なっ……」

 なんとスーメリアが魔力切れに陥った。

 くそっ使えない……。


「魔力回復のポーションは!?」

「もうとっくに飲み終わりました……もうありません……(涙)」

 魔力切れのためか、へたり込むスーメリア。

 泣いてる場合じゃないだろ!

 

「ラーヴェは!?」

「私も……もうすっからかんです……(涙)」

 手を下ろし、魔力切れのためにその場にしゃがみ込むラーヴェ。

 こんなところで力尽きたら死ぬだけだぞ!

 死ぬ気でやれ!!!

 



 グルォォオオォォオオオォオオオオオ!!! 

「アークウルフ……」

 その僕たちにとって最悪の状況で追い付いてきたアークウルフが吠える。


 グルォォオオオオグルォォオオオオグルォォオオオオ!!!

 そして、唸り声とともに風の衝撃波を放ってきた。

「うわーー」

 僕らは吹っ飛ばされた。

 こんな魔物が魔法を使ってくるのか。

 

 僕は頭を上げ、アークウルフのほうに目をやる。

 そこにはラーヴェに迫るアークウルフ。

 あいつは器用にもラーヴェ以外を吹っ飛ばしたらしい。

 

「いっ、いや……いやっ」

 アークウルフへの恐怖でへたり込んだままのラーヴェ……。


「ラーヴェ!逃げろ!!!」

「ライエル様……助けてーー!」

 


「……」

 スタタタタタタタ……ガキーーン!

 ラーヴェに向かって舌をたらしているアークウルフにディルクが斬撃を放つが弾かれてしまった。

 

「くっ……」

 グルォォオ!!!

「ぐあーーー」

 さらに、ディルクは蹴り飛ばされてしまった。

 


 やばい……。


 アークウルフが吠える。

 グルォォオオォォオオオォオオオオオ!!!


 

 なにをする……それは僕の女だぞ……。



「いやーーーーライエル様ーーーーー!!!!」

 


 アークウルフが大きく口をあけてラーヴェに迫る。


 

「やめて……いや……精霊様!……なんで……なんで誰もいないの!……助けて!……ライエル様!」

 

 

 ガブリ!



「きゃあーーーーーーーーーーーーー……」

 


 ガブリ!



「……」

 



 

 ゴリ……ゴリ……ゴリ……


 

「うそ……だろ……」



 

 食われた……ラーヴェが……







 ゴリ……ゴリ……ゴリ……





 


 グルォォオオォォオオオオオ!!!


 なんだ?

 アークウルフが明後日の方を向いて走っていく……。

 


「……行くぞ……逃げるんだ」


 僕はディルクを追って走った。

 スーメリアも。


 

 

 ラーヴェを喰ったアークウルフは追ってこなかった。

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