第20話 勇者ざまぁ⑨ギルドでの暴走

side 王子(勇者)ライエル

 

「まさかディルクを失うとは……どうするつもりだ?」

 なんとか王宮に戻った僕にかける言葉がそれか? 命を賭して冒険してきたのだぞ?


「エメリアに謝って再びパーティーを組めと言ったのに、まさか怒らせて断られるとは。しかもそれを余に報告せず、神殿で見繕ったものをつれて強引にロデリグ大陸に渡り、今度はディルク……。ハルボス伯爵家から抗議が上がっておるわ!」

「なんだと……」

 あの場に自分から残ったのはディルクだ。僕はやめろと言ったのだぞ? それなのに、なぜディルクの愚行が僕のせいになるんだ。

 ふざけるなよ!!!?


「エルフの王族に続いて、優秀な冒険者でもある貴族の子弟……次は誰が犠牲になるんだと言われていることについてどう思う?」

「くっ……」

 父上はただ淡々と言葉を投げてくる。そこに僕への愛情や感謝などは何も感じられない。もう我慢できない……。


「お言葉を……」

「誰が発言を許可したのだ。あぁ、聞けるなら聞きたいものだな。ディルクはエメリアに救われたようだぞ? しかもお前たちが敗走したプラチナトレントを倒し、その一帯の闇の魔力を払ったようだ」

「なっ……」

 なんだと? エメリアの奴がまた? マジでふざけるなよ、あのクソ女!!?


「何を怒っているのだ? まさかエメリアにではないだろうな? お前が怒るべきなのは準備不足で状況把握も怠りパーティーを窮地に追い込み、かつ仲間を見捨てた自分に怒るべきだ。なぜ救ってくれるものに怒る? そこまでアホなのか?」

「なぁっ……(怒)」

 くそっくそっくそっ!!! ふざけやがって!


「なにも言えぬか。まぁ仕方ない。それほどの失態を演じたのだから、しばらく大人しくしていろ」

「なっ(怒)」

 マジでふざけるなよ?

 僕が笑われているだと?

 誰のせいだよ!

 全部エメリアのせいだろ?

 玉座に座ってぬくぬくとしているやつにはわからないんだよ。


 魔物との戦いは命がけなんだ。

 その命がけの戦いを僕はしてきているんだぞ?

 それを嘲笑いやがって。


 国王は言いたいことだけ言って、奥へ下がっていった。

 もうあんな男を父とは思わん。




「ライエル様、それで……」

 国王の玉座の間を辞した僕は自室で暗い顔をしているスーメリアの報告を聞いている彼女はロヴィニエルとともに冒険者ギルドと市場を回って帰ってきたところだ。

 そこでなんとエメリアとディルクと遭遇したらしい。


「ライエル様、あのものたちはもはや会話が成り立つ相手ではありません。まさかディルクまでライエル様の責任を声高に主張するとは。自らの力不足をライエル様のせいにして貶めてくるとは……」

 なんてやつらだ。自らの力不足を弁えて僕に謝るべきものたちが、僕に責任を押し付けて大きな顔をしているとは……。


 許せん、許せん、許せん!!!!


 絶対に許さないぞ。


 

「ライエル様、どこへ!?」

 僕はエメリア達の非道な行いを正すため、部屋を飛び出した。そんな僕をスーメリアが追ってくる。


 あのクソ女、ギルドカードのフレンドを外しやがった。そのせいであいつに連絡が取れない僕は、まずはギルドに向かった。

 そして、そこにあのクソ女がいた。




side 精霊術師エメリア


「エメリア!」

 ギルドで情報収集していると、アホ王子が入ってきて私を見るなり叫びだしました。


「ライエル様? どうしたのですか? 謹慎と聞いていたのですが……」

 面倒すぎて顔に出てしまっていると思いますが、何をしに来たのでしょうか?

 

「ふざけるな!? 貴様のせいで僕は酷い失敗をさせられ、謹慎させられたんだぞ!?」

 えーと、意味がわかりません。失敗をさせられってどういうことでしょうか?私がなにか陥れたとでも?


「私のせい? なにを仰っておいでなのですか? あなたが私をパーティーから追放したので、私は別で攻略を進めているだけですが。違いますか、ディルク?」

「いや、違わない。エメリア様の言う通りだ。そしてライエル王子がエメリア様の代わりに連れて行ったラーヴェはアークウルフに喰われ、俺はプラチナトレントの前に残らざるを得なかった……エメリア様は全く何も関係ないな……」

「ぐっ……」

 ディルクはよくわかっています。私の追放も見ていましたし、その後はライエル王子について冒険していたのですから当然ですが……。

 しかし……


「喰われた? えっ? あのエルフさん、アークウルフに喰われたのですか? 勇者様と一緒にいたのに???」

 仲間を犠牲にしたとか言っていたからてっきり大ケガでもして戦線離脱したのかと思いましたが、まさか喰われたとは……。

 


「勇者様のパーティーメンバーって魔物に喰われたのに勇者様は見捨てたのか?」

「ひどすぎる……がっかりだ……」

「それなのにすぐメンバー募集してたのか? さすがに酷いだろ」

「俺、ついていかなくてよかった~」

 私たちの言葉にギルド内が騒然としています。これは不味いのではないでしょうか。今さらですが、どこか部屋にでも入った方がいいでしょうか?

 


「何を言うのですか、あなたたちは。たしかにラーヴェはアークウルフに喰われてしまいましたが、それはラーヴェの力不足です。エルフの王族として精霊術を操り、魔法も使えるというから連れて行ったのに、いざ戦いの場ではなにもできなかったラーヴェの責任です。それをライエル様のせいにするなど、恥を知りなさい!」

 アホ王子を後ろから追いかけて来たスーメリアが堪えきれずに爆発したようです。


「いやいやいやいや。絶対ついていきたくない」

「死んだのは弱いせいですってか?まじで酷いパーティーだな」

「私見たことあるけど、ラーヴェっているエルフはライエル様の愛人のようにくっついていらっしゃったような……」

「えっ、マジで? 愛人が死ぬのを見捨てた上に、弱いせいだって? やばいだろ。人としておかしいんじゃないか?」

 えぇと、スーメリアは全く状況を理解していないようで、そのセリフは完全に逆効果でした。というか、本気でそんな風に考えているのでしょうか?


「確かラーヴェは王子様に"魔の濃い森では十分に魔法を使えないことを報告していた"にもかかわらず、王子様が僕に任せておけと言って連れて来たって言ってたけどな。それなのにアークエルフが迫る中で魔法を使えと強要して、みすみす喰われたんだから、どう考えても王子の責任だと思うがな」

 アホ王子とスーメリアの様子に耐えかねたのでしょうか、ディルクが爆弾を投げつけました。やばいくらいの威力ですね……。横で聞いていた私もドン引きですわ。


「ないないないない。怖すぎる……」

「死人は喋れないからな。犠牲になったラーヴェという女性は死んでしまったから責任をかぶされたんだろう……」

「あんなのが勇者で、あんなのが王子なのか?」

「そう言えばエメリア様のことも追放したんじゃなかったか?」

「そのエメリア様が魔物討伐してるのはなんでだ? 十分戦力になるはずの人を追い出して、役立たずを加入させたのか?」

「愛人で囲ったとかなんじゃない? 最低すぎるな……」

「それで仲間を失ってるんじゃ、ただのバカじゃね~か」

 火に強力な薪をくべられたギルドのやじ馬たちは大騒ぎですね。謹慎を破って出て来て自らの評判を地の底に落として、このアホ王子は何がしたいんでしょうか?

 あっ、何も考えてないんですね。そして、今呆然としています……。

 

「黙りなさい! 不敬罪で全員牢獄に……」

 形勢不利を感じ取りつつスーメリアが爆発しそうになったところで……


「そこまでです。なぜ謹慎されている王子様がこちらにいらっしゃるのですか? ここは今あなたが来るべきところではありません。王城で大人しくしているべきなのでは?」

 ギルド長が出てきましたね……。もう少し早く出てきたらよかったのに、もしかして狙っていたのでしょうか?

 

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