第21話 勇者ざまぁ⑩無謀な行い

side 王子(勇者)ライエル


 ギルドで散々エメリアとディルク、そしてやじ馬たちにバカにされた僕とスーメリアはギルド長によって拘束され、王城に戻されてしまった。

 どいつもこいつも邪魔しやがって。


 僕は王城を歩き、王国騎士団を訪問した。


「これは王子様。いかがなさいましたでしょうか?」

 若い騎士が出迎えてくれた。


「副騎士団長はいるか? ライエルが用があって来たと伝えろ」

「はっ。お約束は……いえ、呼んでまいります」

 なぜ僕が事前に連絡しないといけないんだ。僕が来たらお前たちの方から迎えるのが当然だろう?


「これはライエル王子」

 イライラしながら待っているとようやく副騎士団長がやってきた。


「遅い!」

「……すみません」

 僕が文句を言うと、副騎士団長は跪いた。そうだ、最初からそうしていろ。僕は勇者で王子なんだぞ? お前たちが気軽に声をかける相手ではないことを理解しろ。


「して、どのようなご用件で?」

「ふん。次の攻略にはお前がついて来い」

「はっ???」

 なぜ尻尾を踏まれた猫のような顔で驚いているんだ。副騎士団長なのだから王族でもある僕が攻略に行くのには付いて来るのが当然だろう? 今まではディルクがいたから免除していたが、あいつはパーティーからすでに追放した。


 僕は副騎士団長に攻略に旅立つ日程を告げてその場を去った。何か文句を言っていたが、そんなものは騎士団長や部下を相手にしていろ。僕が求めるのは結果だけだ。





「お前は私の言うことを何か聞いていたのか? 余は謹慎を命じたはずだが?」

 翌日、僕は国王から呼び出された。まったく、僕が世界の未来を憂いて魔族を討伐しようとしているのに、なぜこいつは邪魔をしてくるんだ?

 どうせ安全な場所から眺めているだけなのだから、口出しせずに黙っていろと言いたい。


「しかも副騎士団長を連れて行くとはどういうことだ?」

 もう耳に入っているらしい。それなら話は早い。


「今までディルクのような半端なものを連れて行っていたのが間違いだった。僕はもう引かない。エメリアにもデカい顔はさせない。次こそは僕のパーティーが闇の魔力から解放するんだ」

 僕は決意した。もう仲間を見捨てたりはしない。何かあっても僕が先頭に立って戦うんだ。そのために相手からのヘイトを受けつつ飄々と立ち回れる副騎士団長は重要な駒だ。王族を守るためという大義名分も立つ。断ることはできないはずだ。


「お前は、全く分かっておらぬのだな……」

 国王が僕を見てまるですべてを見通しているかのような鬱陶しい表情をしている。


「わかっていないのは父上の方です」

「なんだと?」

「いいですか? 僕たちが戦っているのは隣の大陸の闇の魔力に覆われた森の中なのです。いつ死んでもおかしくはない、まさに魔境なのですよ。それはあなたのような安全地帯からしたり顔で文句を言われるようなものではないのです。どうせこの場から動けないのだから、黙って見ていてください」

「貴様……」

 国王は怒りを見せるが、それがどうしたというんだ。そんなもの怖くもなんともない。僕が相手にしているのは魔族であり、魔物なんだ。


「それに、父上こそよろしいのですか? 僕が負ければ負けるほど、王族の評判も下がるのですが」

「……」

「もしご理解いただけるのであれば、その椅子に安穏として座っているためにも、僕を支援するべきなのですよ」

 父上は黙った。ほら見たことか。僕をしたり顔で叱っているような場合ではないのだ。


「それで、王命を無視して副騎士団長まで巻き込んでロデリグ大陸の攻略に赴くと?」

「もちろんですとも」

 まったく。この程度で言い返せなくなるなら最初から言わないでほしい。時間の無駄だ。



 僕は副騎士団長を加えたパーティーで、またロデリグ大陸に渡った。

 なんとクソ女があのプラチナトレントを倒し、その周囲を闇の魔力から解放して、さらにラオベルグラッドの守り神と言われていた木の精霊と契約し、その場所まで飛べるようになっていた。

 

 クソ女め……僕へのあてつけか?

 僕が作った足跡を辿ってうまくやりやがって。どうせこそこそとついてきて、僕たちが去った後、温存していた魔力で戦ったんだろう。

 それを全て自分の手柄にしやがったんだ。

 クソ女め!



 もう同じ手は食わない。僕はパーティーに指示して慎重に攻略を進めていく。



 トレントたちの森を抜けた先は、平原だった。

 高い山々に囲まれた不気味な平原。風は生暖かく湿っていて、日の光は少なく暗い。はえている植物も美しい緑ではなく、白や黒ずんだ茶色などで、生命の活力はまるで感じなかった。


 しかし、平原であるため大型の魔物などには近づかずに進むことができる。

 と思っていたが、そもそも魔物がいない……。


 進めば進むほど疲労は感じるが、敵はいないし、罠もない。魔力を失うこともなかった。




「どうなっているんでしょうね?」

 不気味な平原をだいぶ進み、森がかなり遠くに見えるようになってくるまで僕たちは重苦しい雰囲気で歩いてきたが、耐えきれなくなったのか副騎士団長が呟く。


「わかりませんが、敵が一切いませんね……一方で、目指すべきものも見当たりません。この平原は明らかに闇の魔力で覆われていますが、その元凶はどこにいるのでしょうか?」

 スーメリアが平原を見渡しながら疑問を口にした。






『力の弱きものが来たものだな……まさか30年ぶりの人の来訪を迎えてやろうと思ったが、こんなにも弱弱しいものたちだとは思わなかった……』

 

 どこからともなく声がしてきた。


「誰だ!?」

 僕は剣を抜いて誰何する。


『我を見い出すこともできぬとは……滑稽な』


 その声は明らかに僕を嘲笑っていた。許せない……。僕は勇者だぞ?

 

「あっ……あっ……あっ……」


 そんな僕の隣でスーメリアが……どうしたんだ? 天を見上げて口を開いたまま目を見開いている……。


「上に何かいるのか……、なっ!?」


 いた……。

 僕らの上空に、そいつが。


『ようやく気付いたか。これほどまでに魔力を発して自己主張しているというのに愚鈍なものよのう』


 背に真黒な翼を生やした男……闇の魔力に包まれた上半身裸の筋骨隆々な男が浮かんでいた。

 あれはやばい。


 これでもかというプレッシャーを放っている。

 なぜ僕はこんなのに気付かなかった?


 なぜ……?

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