第18話 ラオベルグラッドの守り神

「すごい……」

 ワイトキングの魔法を見てレオが感嘆の声をあげます。


「つよい……」

 そしてディルクも呆然と突っ立っていますが、傷だらけなので回復魔法をかけてあげました。

 アホ勇者はどこに行ったのでしょうか?

 まさか既にやられてどこかに埋まっているとかでしょうか?


『ふむ……なにやら面白いものが残ったのぅ……』

 そんな2人を全く無視してワイトキングはプラチナトレントがいた場所を注視しています。繰り返しますが、目はありません。


「面白いものですか?」

 なんでしょうか?まだ雷撃による煙が晴れていないですが、確かに何かを感じます。これは……?


『若木だが、ただの若木ではあるまい……』

 ワイトキングが言う通り、プラチナトレントがいた場所には銀色の若い苗木のようなものがありました。


 プラチナトレントの子供でしょうか?

 襲ってこないですよね?


「特に攻撃してきたりはしないようだな?」

 レオが剣を構えて銀色の若木に近寄りますが、何も起こりませんでした。


『話しかけてみると良い……では、我は戻るでのぅ……』

 ワイトキングはそう言いながらうっすらと消えていきました。


「ありがとう、ワイトキング。おかげで難なくプラチナトレントを倒せました」

 私はその姿に感謝の意を表します。

 ワイトキングは温厚で優しい精霊ですが、親しき中にも礼儀ありです。


「ワイトキング殿、感謝する」

 レオはいつの間にか私の隣に来ていて、いつものように私に続いてお礼を言っています。


『よいよい。ではまた何かあったら呼び出してくれ。レオメルドと言ったか。エメリアを頼む』

「!?」

 なぜか私のことをレオに頼むワイトキングと、驚きながらも剣を掲げるレオ……。

 男同士の何かでしょうか?



 それにしても……。


「話しかけてみろと言っていましたが、意識はあるのでしょうか?」


 私は銀色の若い苗木に向かって声をかけてみました。すると……



『あなたは? 精霊術師?』

「「「!?」」」


 あたりに幼い子供の声が響きました。


「銀色の苗木さんですか? はじめまして。私はルーディア大陸から渡ってきた精霊術師のエメリアです。どうぞお見知りおきくださいませ」


 もし精霊だとすると貴重なロデリグ大陸の精霊ということになるので、私は丁寧にあいさつをしました。


『隣の大陸から来たのですか。それはそれは。ここに漂っていた闇の魔力を払って下さったのですね。おかげで出て来れました。お礼を言います。ありがとう』


 そして、銀色の苗木さんも丁寧に答えてくれました。


「あなたは精霊様でしょうか?」


 十中八九間違いないと思いますが、一応聞いてみます。


『そうです。私は木の精霊です。昔はもう少し力のある精霊だったのですが、魔族によって闇の魔力を植え付けられ、貯めてきた力の限り眷属を生み出してこの辺りにすくってしまった。かなり力を使ってしまったようで、このような小さな姿になってしまいました』


 銀色の苗木さんは精霊としてはかなり珍しく意識だけではなく感情も持っているようです。今は少し意気消沈しているようですが、仕方ないですね。自らが守り、自らを生み出した森を傷つけたのでしょうから。


「私たちはこの大陸を魔族の手から解放したいと考えています。あなたを助けることができて良かったです」

『そうなのですね……そちらの方はラオベルグラッドの血を引いているようですが……』


 会話していると、ふと精霊さんがレオを気に留めたようです。

 やはり珍しいですね。普通の精霊は精霊術師以外の人間を識別することはないのですから。


「銀色の樹……もしかしてラオベルグラッドの守り神様だろうか……?」

 話しかけられたレオがとても驚いた様子で銀色の苗木を見つめています。


『そう呼ばれていた時期がありました。あぁ……私は助けを求める人の子も払ってしまったのですね……申し訳ありません』


 ラオベルグラッドの守り神と言えば、天にも届くような銀の大樹だと聞いたことがありますが、そうですか。魔族はその大樹に闇の魔力を植え付け、このあたりを闇に染める尖兵、かつ礎にしたのですね。酷いことをするものです。


「やはり……守り神様なのですね。これまでのことを感謝します。魔族が襲ってきたとき、闇の魔力に抗いながらあなたが多くの民を逃がしてくれたと聞いています。私がこうして生まれたのも、あなたが作ってくれた道を我が両親が通れたからです。本当に感謝します」

 レオは銀色の若木に跪いて最大級の感謝を表しています。


『あなたはずっと戦ってきたのですね。若き人の子よ。そして私を解放してくれるとは……私の方こそ感謝します』

 銀色の若木……ラオベルグラッドの守り神である木の精霊もそんなレオに感謝を返します。

 

 こちらの方々は自己犠牲を厭わず戦っているのは素晴らしいことです。私も彼らにはやはり協力していきたいし、この大陸を魔族から解放してあげたい気持ちが強まりました。



「人と自然が助け合っていたのか……よい関係だな……」

 ディルクも、木の精霊とレオのやり取りを見て感じるものがあったようです。

 アホ勇者のところにいると、アホ勇者が酷すぎるので仕方ありませんね。でも、国王陛下たちはもう少しまともなのですよ?


「回復しましたか? それで、なぜ1人でプラチナトレントと戦っていたのですか?」

 私はディルクに尋ねます。


「パーティーで来たのだがな……」

 自嘲気味に語るディルクの話は衝撃的でした。アホ勇者パーティーが人員補充したのは当然だと思いますが、ディルクの制止を聞かずに無意味に全力で攻撃して力も時間も使ってしまうとは……。それを逃がすための殿を務めるところがディルクっぽいですが、そんな自己犠牲はダメですので、私は怒った顔でディルクの頭を1回叩きました。


「いたっ……」

「リア!?」

 特に避けることもなく私に叩かれるディルクと、私の行動に驚くレオ。

 レオは木の精霊と話していたはずなのにこっちに注目していましたね。


 でも、ダメなものはダメです。

 これはお仕置きなのですから。


「なぜ叩いたのかはわかりますね?」

 私は項垂れた様子のディルクを簡単には許しません。


「あぁ……俺なら逃げようと思えばできたのに、自棄を起こして無意味に戦った……」

「50点です」

「えぇ?」

 正解までたどり着けていないから当然の採点ですが、ディルクは驚いたようです。


「あなたはアホ勇者パーティーで唯一私が信頼し、心配もしていたメンバーです。あんなアホを助けて戦う必要はないということは分かっていると思いますが。そもそも困ったのなら助けを求めてください。私がこちらに来ているのは知っているはずですし、なんのためにあなただけはギルドカードのフレンドを切らずにおいたのか……」

「えっ……えーと……」

 この朴念仁はあまり周囲に気をやるタイプではないので、少しわざとらしく説教をしておきます。この手合いは涙ぐんでも意味がないので、睨みつけながら言っておきます。


「リア……」

 珍しく怒る私にレオが少し驚いているようです。驚きっぱなしですね。


「止めないでくださいね、レオ。これはディルクへのお説教なのですから」

「「!?」」

 2人ともなぜ黙るのでしょうか?

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