第33話 終戦

 清らかな空に高らかに鳴り響く美しい狂騒曲。

 

 再興したラオベルグラッド王国が王都として設定し、整備した街の中心に新たにお城を建てました。

 そのお城で、純白のドレスに身を包んだ私は、落ち着きのあるフォーマルなタキシードに身を包んだレオメルドと並んでこの国の貴族、そして国民の前に立っています。

 もちろん全員は入れないので、代表者たちです。


 さらにそれらを囲うようにして様々な精霊が集まっています。



 今日はレオメルドと私の結婚式です。


 ロデリグ大陸を闇の魔力から解放し、さらに世界中で魔族の四天王を倒して帰還した私を、レオもこの国のみんなも歓迎してくれました。

 まさかパレードをさせられるとは思ってもいませんでしたが、多くの方々に祝福されながら新たな王都を眺めることができたのは幸せな時間でした。


 沿道では口々に私を褒め称えてくれました。


「あれが魔族を一網打尽にした凄まじい精霊術師様よ!」

「なんとお美しい」

「銀髪が光り輝いていらっしゃるわ」

「レオメルド国王陛下は偶然お声がけして協力してもらったんだろ?すげぇ運命だな」

「巡り合わせこそが運命だ。素晴らしい運命に乾杯!」

 

 もう必要以上に魔族を怖がることはないのです。


 幼き頃に無くした弟のお墓には、ここに来る前に立ち寄って報告してきました。

 晴天の中、爽やかな風が立ち込め、花に囲まれた墓地は、まるで弟が微笑んでいるかのような錯覚を覚え、不覚にも泣いてしまいました。


 私がここまでこれたのは精霊様達のおかげです。

 いつも寄り添って、力を貸してくれました。

 私は感謝のために、この場に集まってくれた全ての精霊に向けて魔力を流します。


『ちょっ……ちょっとエメリア。多すぎるよ。今からそんなに満腹にされたら最後まで見れないよ』


 仲良しのモルドゥカ様の大袈裟な声が聞こえた気がしましたが、私は嬉しいのです。



 そうして辿り着いた王城……これはラオベルグラッドの守り神である銀の若木の精霊様が私に縁ある精霊様達に協力を呼びかけ、凄まじい速度で完成させたそうです。

 その威容は荘厳の一言です。

 ここまで美しいお城は見たことがありません。


 そんなお城で、レオは待っていてくれました。

 パレードの馬車から降りた私を見下ろす位置で。

 きっとずっと見ていてくれたのですね。


 私は走り出したい気持ちをぐっと抑え、シルフィード様に風で運んでもらいました。

「リっ、リア!?」

 

 えっ?走るよりも早く飛び込んでるって?

 恥ずかしながら我慢できなかったのです。


「レオ……ただいま戻りました」

「……あぁ、リア。お帰り。ずっと待っていた」


 そして私たちは盛大なキスを披露しました。

 そして神官に肩をトントンされて、『もう少しお待ちください」と窘められた私たちは真っ赤です。



 

 その後の結婚式と披露宴は人生史上最大の素晴らしいものでした。






 そして次の日。

 私はレオメルドたちに旅の出来事を報告し、この国で魔族の犠牲となった方々を追悼する式典に出席しました。

 

 改めて犠牲になった方々の多さに驚くとともに、私の目が黒いうちは二度とそのようなことを起こさないと誓います。


 ふと感じる戸惑い。

 これは何でしょうか?

 よくわかりませんが、死者の眠る場所ですから複雑な感情も渦巻いているのでしょう。

 私が皆様に安らぎを差し上げましょう。

 

 

 そう思いながら薄い魔力を放っていると、私の手に久しぶりに触れる剣の感覚が現れました。

 これは……聖剣?

 でもなぜ?


 なぜ剣の精霊様が宿っているのでしょうか。

 もしかしてあなたが聖剣だったのですか?えぇ?


『久しいな、精霊術師よ』

「はい、剣の精霊様。つかぬことをお尋ねしますが、もしかして聖剣様でいらっしゃいますでしょうか?」

『人は力を発揮している状態の私のことを聖剣と呼ぶな』

「以前お会いした時と、その……ライエル様が持っていた時ではお姿も違いますね?変えていらっしゃったのですか?」

『あぁ、あのものが好きな外見になっていたし、聖剣なら聖属性の魔力を放っているものだと言いはるのでな』

「そうだったのですね。ということは私の頼みを聞いてくださったのですね。ありがとうございます」

『残念ながらあまりにひどい行動をとるのでやめてしまったがな……』

「そうでしたか。それは重ね重ねすみませんでした」

『なぜ謝る?そなたのせいではあるまい』

「今思い直していたのです。なぜ彼はこうなってしまったのかと。きっと誰も止めなかったからですね。幼い子供のまま」

『ふむ……そうかもしれんな』

「いずれにしても、王妃教育のためにあがった王宮であなた様に出会い、私は舞い上がっていたのでしょう。話しかけられたときに、『王宮にいるのならライエル様をお願いします』と言ってしまいました。あの時すでにライエル王子は勇者と言われていたのですから頼む必要などなかったのですね」

『それは違う。人間のしきたりは知らぬが、あの時には今だ我は持ち手を選んでなどいなかった』

「えっ?」


 私は聞いてはいけないことを聞いたような気がしました……。


 今となっては考えても仕方のないことかもしれませんね。




 こうして私の冒険……私の物語は終わりを迎えました。

 ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

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