第16話 勇者ざまぁ⑧敗走する勇者パーティー

side 勇者ライエル


 「くそっ、走れ!」

 僕らは全員で走る。



 ミスリルトレントに殴り飛ばされた僕とロヴェニエルだったが、うまく森の中に転がれた。


 素早くスーメリアとレーテが回復魔法と回復薬で僕らを治した後、僕らは全員で走って逃げた。



 くそっ……忌々しい。


 走り去るときに見えたミスリルトレントの枝は見たことのない大きさだった。

 あんなのに叩かれていたのかとゾッとした。


 どうなっているんだこの森は。

 あれは無理だ。


 あの巨大な枝を防げる戦士はいないし、あのサイズだと本体に攻撃が届かない。


 早く活躍しなければならないのに……くそっ……。

 長くこの森で戦ってきたという剣士があれの攻略方法も知っていたとすると、またエメリアに先を越されてしまう。

 そして僕の評判を落とされる。

 そんなことは許されない。


 

 しばらく走って、これまでの探検の途中で休憩した場所まで戻ってきた僕らは再びその場所で休息をとった。


 僕たちの表情は暗い。

 前にここで休憩を取った時には自信に満ち溢れていたというのに。



「王子様、どうする?あの大きさはなかなか厳しいぜ?」

 みんなの沈黙を破ってディルクが問いかけてくる。

 僕は即答は避け、考える。


「ロヴェニエル、あいつの攻撃でもキミの大盾に損傷はなかった。もう一度、今度は肉体強化もしておけば防げるか?」

 僕はなんとかあいつを倒すために考えを巡らせる。


「なっ?」

 幼いレーテは驚いているが、ここは覚悟の問題だ。

 僕たちはこの大陸を闇の魔力から解放して人々を救わなければならない。


「ライエル様。防げます」

 それに対してロヴェニエルは覚悟を決めた表情で答える。

 よし。


「ではもう一度あの場所に戻り、今度はロヴェニエルが身体強化に防御魔法を重ね掛けした状態で大盾を構えて前に出る。そこを襲ってくる枝を僕とディルクが全力で叩き斬る。さらに、スーメリアは全体を眺めて本体を見つけ次第、全力で攻撃だ。魔法防御を持っているだろうが、弱点属性であれば届くだろう。一度この流れを行って様子を見るから、それぞれ役割をこなしたら森の中に戻れ。いいな!」

「「「はい!」」」

 レーテは納得できていないようにも見えるが、指示には了解した。

 悪いが綱渡りが必要なこともある。



 そして決意を胸に先ほどの広場に戻った僕たち。

 

 スーメリアとレーテとロヴェニエルが身体強化と防御魔法を重ね掛けする。

 そしてロヴェニエルが大盾を構えて前に出た。


 ドゴーーーーーン!!!!!!!!


「むぅ……」


 そこに待っていましたとばかりに襲い来る枝。

 それを準備万端でロヴェニエルが受け止めた。


「行くぞ!」


 僕とディルクが枝に向けて斬撃を放つ。


「雷光剣!!!」

「雷光斬!!!」


 ガキィーーーーーーン!!!!


 よし!やった!


 僕たちの剣はミスリルトレントの枝を切り落とした!

 これなら行ける!


 上空には複数の枝がうごめいている。

 本体がどこかわからないが、まずはあの枝を落とすぞ!


 ロヴェニエルが盾を構えて前進する。

 そこにまた振り下ろされる巨大な枝。


 ロヴェニエルが耐え、そこを僕とディルクが攻撃する。

 それを3回繰り返したころ、大きな音とともにミスリルトレントの本体が前進してきた。


 大きな幹に浮かぶ顔は明らかに怒りに染まっている。

 チャンスだ!


「行きます!雷撃魔法・サンダー・ノヴァ!!!!」


 そして斬られてのたうち回る枝がはえていた元……ミスリルトレントの本体にスーメリアが雷撃魔法を叩きこんだ!



 間違いなく魔法使いであるスーメリアの全力の一撃。

 その魔法はミスリルトレントに直撃すると、爆発を起こし、爆風をまき散らした。

 

 やったか!?


 スーメリアの魔法によってあがった爆炎による煙が晴れていく中、僕は期待してミスリルトレントのいた場所を眺めていた。


 


 そして爆煙が晴れた場所には燃えながら動きを止めたミスリルトレントがいた。






 しかし僕の思っていた状態ではなかった。


 


 なぜなら燃えるミスリルトレントの背後に、より大きなトレントがいたからだ……。




「らっ、ライエル様……あれはプラチナトレントです……。魔法耐性(大)を持っているため、私の放ったサンダー・ノヴァはあれにダメージを与えられていません……。しかも魔力吸収を持っています。弱点属性は雷と地で、他のトレントと変わりませんが……」

 スーメリアが呆然としながら鑑定結果を伝えてくるが、その目は僕に訴えてくる。

 あれはまずいと。

 

「王子様、撤退だ。あれは我々では無理だ」

 ディルクが冷静に告げるが、僕はその言い方がひっかかった。

 ひっかかってしまった。


 我々ではというのはどういうことだ。

 では誰なら戦えるんだ?

 まさかエメリアとか言うんじゃないだろうな。


 僕は負けてはいられない。

 あれだってデカいだけでトレントの一種だ。


 魔法耐性があろうとなかろうと、僕がやるべきは斬撃を浴びせて倒すことだけだ。




「うぉおおぉぉおおおぉぉぉおおおおおおお!!!!」

「おい!王子様!」

「なっ、ライエル様?」

 僕は全身全霊を込めて聖剣に雷属性の魔法をまとわせる。


「究極雷光剣だ!!行けーーーー!!!!!」

 そして燃え盛るミスリルトレントを薙ぎ払ったプラチナトレントに向けて剣を振り、雷を纏った斬撃波を叩きこんだ。


 ガキィーーーーーーン!!!

 グォオォォオオオォォォオオオオオオオ!!!!!


 しかしあっさりと弾かれた。


 なんだと……。

 僕の全力の一撃だったんだぞ?

 それをあんなにあっさり弾くとはどういうことだ!



 


 グォオォォオオオォォォオオオオオオオ!!!!!


 そのプラチナトレントは他のトレントたちと同じように唸り声をあげつつ振り上げた枝を叩きつけて……


「くそっ、やばい、枝が来るぞ!防御か回避を……いや違う。なんだ!?」


 来なかった。



 プラチナトレントが振り上げた枝に何かが集まっている……。



 攻撃か……?


 いや、集まっているのは魔力……。



 集まって行っている元は周囲にいるトレントたち……。



 そして、僕たちだ。


 あいつ、僕たちの魔力を吸ってやがる!!!




「むぅ……」


 僕達の中で一番最初に膝をついたのはレーテだ。


 次いで……


「すみません、ライエル様……これは……きついです……」


 スーメリアだ。


 まずいまずいまずいまずい……。


 このままでは逃げられない。



「逃走ではなく攻撃してしまった分、逃げる余力がなくなってしまったな」


 くそっ、僕のせいか?


 くそぅ!!!



 違うだろ!


 お前らがふがいないせいだよ!


 どうしてあのときディルクもスーメリアもロヴェニエルも攻撃しなかったんだよ!


 オレ達はロヴェニエルが防いだ後は全員で攻撃してただろうがよ!


 お前らが日和って攻撃できなかったんだろうがよ!



 攻撃していればこの魔力吸収ももう少し遅かったかもしれねぇのに、お前らが貧弱だから。


 ふざけんなよ!


 だからエメリア頼みとか言われんだよ!



「レーテ!スーメリア!持ってる魔力回復薬を飲め!それを飲んだら撤退だ!いいな!!!」

「「はっ、はい!」」

 慌てて魔力回復薬を取り出して飲む二人。

 判断が遅いんだよ!

 魔力吸収でやばいんだから早く飲め!!!


「王子様。逃げ切れると思うかい?」

 くっ、こんなときに議論してる余裕はないんだ!!


「そんなことを言っている余裕はない。行くぞ!!!」

 僕はレーテとスーメリアが魔力回復薬を飲み切ったのを確認すると、撤退を指示する。


 それについて走るレーテとロヴェニエルとスーメリア。


 ディルクは……


「俺はここまでだ。可能な限りやつを引き留めるから、お前たちは行け!」


 なんとプラチナトレントに向かって剣を構えていた。


 くそっ、そんなことしてないで走れ!

 逃げるんだ!!!

 また僕が見捨てたとか言われるじゃないか!!

 

 

「ディルクさん、すみません!このご恩は」

 スーメリアが走りながらディルクに叫ぶ。


「いいから行け!」

 ディルクはこちらを振り返ることなくそう言い放った。

 そこに振り下ろされる巨大な枝。

 ディルクはかろうじて回避する。


 あれはもう無理だ。

 あそこまで戻ってディルクを引っ張ってくることもできない。

 くそっ……。

 どいつもこいつもふざけるなよ!!!?



 そうして僕たちは転移の魔道具を2回使ってルーディア大陸に戻ってきた……。

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