第21話 愛に時間を


「表示された運命がバグってる……どうして!?」


 キズナはデータバンクから同じような症例しょうれいを探すが見つからない。

 〈ヴォイド〉と同じレベル4案件――〈ヘイトレット〉〈ミスディレクション〉〈ハーレム〉なども確認した。


 しかし、その全てに同じような症例はなかった。こうなった原因はわからない。


「これが初ってこと!? そんな……そんなことって……」


 ここまでですでに7分経過けいか

 タブレットで太陽の様子をを確認すると、何とか状態を維持いじしようと頑張っていた。


 すでに真奈が乗る路線バスの停留所までの距離は半分を切っていた。

 太陽はゆったりとした足取りで懸命けんめいに、取りとめのない話題を振り続けている。


 好きなものこと。

 好きな歌手のこと。


 好きな漫画のこと。

 好きなドラマのこと。


 学校のこと。

 友達のこと。


 そして――好きな人のこと。


 彼女の興味を少しでも引けるよう、必死に食らいついている。

 キズナを信じて、少しでも時間をかせぐために。


「太陽……くそっ、考えろ! 考えるんだ! 太陽がボクを信じて頑張っているんだ! 何とか……何とかするんだ! ボクは天使プロじゃないか!」


 考えつつも手を動かし、他のまだ未確認のデータを閲覧えつらんするキズナ。

 しかし、これといって異常はない。


 2人の好感度は常に最大値を維持しているのに、予定と違ったことが起きている。置き続けている。

 8分経過、まだ原因はわからない――。


「……そうだ!」


 ここでキズナはある一つのことを思いつく。

 こうなった原因はまだわからない。


 だがわからないなりにやれることが一つだけあった。

 モテホンを手に取りWish Starを起動する。


 この時点で9分経過――太陽との約束の時まであと1分。


「午後0時=勉強終了。対象者Bが勉強のお礼にと、雑誌で取り上げられたオシャレなカフェと対象者Aをさそう。ここでお互いの学校でのことを話し、さらに好感度を上げ親近感しんきんかんを持たせる――」


 キズナは書き換えるべき運命を、再度入力しはじめた。

 超スピードでシナリオを打ち直し、バグった運命の上からもう一度書き込うとしている。


 原因はわからず、このままではシナリオが進行しない。

 ならば、もう一度ゼロから打ち直せばいい!


「午後1時=食事のお礼に対象者Aが対象者Bを映画に誘う。ジャンルはアクション映画。ヒロインを助ける主人公の姿と朝の自分を重ね合わさせることが目的。これで対象者Aに強い興味きょうみいだかせる。午後2時=映画中。時折ときおり自然な感じでお互いの顔を――」


 キズナは目にも止まらない速さで、次々とシナリオを打ち込んでいく。

 シナリオの分岐点ぶんきてん――タイムリミット――真奈が帰りのバスに乗るまで、あと20秒。


「お願い……間に合って!」


 いのる間も手を休めない。キズナの両指は常に文字を打ち続けている。

 モニター向こうの2人は、停留所手前の歩道橋に上がろうとしている。


 あの歩道橋を渡ってしまえばもうバス停だ。

 望まないゴールが目視できるほど近づいている。


『キズナ! まずい! バスが来ている!』

『そんなっ!?』


 最悪だ。シナリオ強制終了となるトドメの一撃が目視の距離まで来てしまっている。

 それに追いちをかけるかのように、真奈の歩行速度が早まった。

 あと3秒。


『お待たせ太陽! 今何とかする!』


 あと2秒。

 キズナが送信ボタンを押した。


 書き直されたシナリオのデータがアカシックレコードへと送られる。


 ――間に合え!


 残り1秒。


 【送信されました】


『間に合ったよ太陽! バグってたシナリオを書き直してもう一度送信した! 原因はわからなかったけど、これで正常なシナリオ進行に戻ると――』


「バスも来たからここまででいいわ。今日は本当にありがとう、茂手くん」


 ゼロ、タイムリミット。

 運命とは、二人の想像以上に無慈悲なものだった。






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 《あとがき》

 ゲームオーバー。

 恋愛シナリオ終了です、

 運命の修正は失敗…………だけど?

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