第30話 合流

『なんてタチの悪いバグだ……』


 キズナの説明を受けて、俺は愕然がくぜんとした。

 そんな危険なバグがレベル2なのかよ。


『危険度は高いけど難易度は低いからね。発症前にバッチを当てて処理しちゃえば簡単に解決できるんだ。でも……』

『でも?』


『今回は違う。太陽のレベル4バグと接触したせいでバグが進化し、パターンが変わっちゃってる。一応普通のアクセラレイション用バッチを試しはしたけど、効果は無かったよ』

『最悪じゃねーか!』


『そうなんだよ、今の太陽の状況って本気でヤバいんだ。今回限定の修正バッチは開発依頼書を出しておいたけど、完成まで2日はかかるし……』

『2日か……』


 それくらいならば何とかなるかもしれない。

 見つからないうちにダクトから外へ逃げることができれば、2日くらいなら何とか……

 塚本に金を借りて、隣県りんけんにでも隠れるのがベストか?


『実は今、そっちに向かっているの。もうすぐ着くから。で、着いたらのことなんだけど――』


 キズナとの脱出の打ち合わせをする。

 待ち合わせは家の裏庭。


 来るまでに地下から出られなければキズナがヘルプ。

 夜明け前にここを脱出し、ステルスモードで空から脱出と言った流れだ。


おどすようだけど一応伝えとく。今の彼女は限界ギリギリまで太陽への愛情が蓄積されている。多分、あと1回一目でも太陽を見ちゃったら心のダムが決壊けっかいすると思う。そうなったらたぶん、理性とか吹っ飛んじゃって暴走するから、そうなる前に絶対に脱出して。太陽のためだけじゃない、彼女のためにも』


 小さな声、しかし深く、深く、地の底、海の底まで染み渡るような声で念を押すキズナ。

 言われなくてもそのつもりだったが、より具体的な状況を聞かされたせいか、俺の手が汗でにじむ。


 あと1回、その単語が俺の心に深く突き刺さる。


『なるべくボクも急ぐから。じゃあ太陽、どうか無事で……』


 通信が切れた。

 俺はダクトの入り口に手をかけると、上半身を中にすべり込ませる。

 全身を曲げて芋虫の様にしながら前へと進む。


 ダクトの中は少し進むと、地上の空気を取り入れるため坂になっている。

 決してゆるやかとはいえない坂を、俺は手足を突っ張り少しずつだが確実に地上へと上っていく。


 10分後、坂が終わって平地になった。

 まだダクトは続いているが、高さ的に言えばここはもう地上なのだろう。


『……太陽、どこ?』


 脱出路終盤、せまい通路を前進中に通信が再び。


『……太陽、着いたよ。……どこ? どこにいるの?』

『……ここだ、キズナ。お前の足元。近くに金属の小さな柵があるだろ? 五本くらいの。その奥にいる』


  暗くてよくわからないのか、「柵……柵……」と、キズナがダクトの入り口を探している声がわずかだが聞こえてきた。

 頭の中ではなく耳に。

 もうお互いの距離は近い。


 あちらの声が聞こえるのだから、こちらの声も聞こえるはず。

 俺はキズナをサポートすべく「ここだ……」と小さな声でつぶやいた。


「あっ」


 どうやら気づいてくれたようだ。


「そこが出入り口だ。悪いけどその柵を外してくれないか? 時計回りに回せば簡単に外せるから」

「わかった」


 キズナは鉄柵に手をかけ、時計回りに回した。

 俺はキズナに手を貸してもらい、ダクトの中から抜け出した。


 まだ暗いが、お互いの顔が確認できるくらいに明るくなってきたことが気になった俺は、彼女に時刻をたずねる。


「えーと、午前4時51分だね」


 もうそんな時間だったのか。

 ダクトをって上っているうちに結構な時間を消費してしまったらしい。


「キズナ、一刻も早く逃げるぞ」




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 《あとがき》

 今回は短め。

 理由はもう次の話の演出上です。

 だから2話アップします。

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