エピローグ

「おい太陽。放課後ゲーセン行こうぜゲーセン。ネットで知り合った女の子が友達連れてくるって言ってたから頭数いるんだよ」


 5月23日――あれから約3週間。

 世にも奇妙きみょうな体験をした俺は、無事に今日も生きている。


「お前彼女できなかったっけ。UFOキャッチャーがきっかけで?」

「……何のことか忘れたな」


 ああ、そういやそうだっけ。

 色々あってすっかり忘れていたよ。


 こいつのことだ、きっと下半身がアクセラレイションしたんだろうな。

 性的に常にバグっているからな、こいつは。

 そりゃ振られるわ。


「ゲーセンか……どうするかな、中間テストも近いし」

「いいじゃんいいじゃん。テスト前にパーッと息抜きってことで!」


「気が進まないなあ……」

「何だ太陽テンション低いな、そんなんじゃモテねえぞ。ただでさえお前は彼女イナイ歴17年の記録ホルダーで魔法使い候補生こうほせいなんだからよ。自分から積極的にガンガン行かないと手から炎出したり宙に浮いたり、瞬間移動したりするようになっちまうぞ」


「もし本当にできるんなら、なってもいいかな、魔法使い」


 そんなことができれば大道芸人どころか一流のマジシャンにだってなれる。

 アカシックレコードに書かれていた最悪の運命だけは回避できそうだ。


「おいおい……あまりにも童貞をこじらせすぎてさとっちまったのか? まだ悟るには早すぎるぜ。なんてったって俺たちはまだピッチピチの17歳。あぶらがのった男子高校生なんだからよ」


 微妙なピッチピチ具合だ。

 脂がのっているという表現はいかがなものだろうか。

 油ギッシュな中年を連想させる。


「だから行こうぜ。もしかしたら新たな出会いがあるかもしれねえだろ? 他の奴等も誘って。もちろん女子も。何なら俺が誘ってやるから……いや、むしろ俺に誘わせてください!」


 塚本はそう言うが早いか、真っ先に女子の下へと駆け出した。

 初めに八舞さんたちが飯を食べている一角に特攻をかけるとは無謀むぼうとさげすむべきだろうか?


 それとも勇気と賞賛しょうさんするべきだろうか?

 多分前者だ。あいつは自分よりはるかに強大な敵に挑むノミと同じように、本能で動いており恐怖を理解していない。


「ねえ、茂手くん」


 塚本が特攻してしまったので誰も話す人がおらず、外を見ながら飯を食っていると、いつのまにか八舞さんがいた。


 モテホンが壊れ、あのときの記憶がないので、俺の呼び方も元に戻っている。

 もちろんアクセラレイションからも解放され、普段の、いつもどおりの、俺が好きだった、好きになった彼女に戻っている。


「今、塚本くんが遊びに誘ってきたんだけど、それってあなたも行くの?」

「ああ、振られた友達につきあってやるのも友達の義務ぎむだしさ」


 あの日、モテホンが壊れた瞬間倒れた彼女を、目が覚めるまで介抱かいほうした。

 目が覚めた後、俺は彼女に「近所で倒れていたのを発見したから連れて帰ったという嘘をついて家に帰した。


 彼女が家を出るとき家族についた嘘とは矛盾むじゅんが生じてしまったが、どうやらうまくいった様子。

 その後、彼女からそのことについて追求されることはなかった。


「ふーん……じゃあ、私も行こうかな」


 まるで俺に気があるかのようなことを言って参加を決めた彼女。

 ヴォイドが運命に巣食っているため、そんなことはありえないというのはわかっているが、何となく嬉しくなってしまうのは男の性というヤツだろうな。


「用件はそれだけ。じゃあねっ」


 それだけ告げると彼女は友達の元に戻った。

 友達と一緒に俺のほうを見て何か話しているけど、それはきっと、俺のことではない。


 ――うん、『じゃあね』八舞さん。


 俺は心の中で彼女に別れを告げたあと再び外を、空を見る。

 キズナは助かったのだろうか?


 八舞さんをソファの上に寝かせた後、すぐに仲間の天使が彼女を連れ去って行ったので、あいつがどうなったのか俺にはわからない。


 返しそびれた通信機兼発信機で、何度もキズナに呼びかけたのだが何も返ってはこなかった。

 キズナは無事なのだろうか?

 何もしていないとそのことだけを考えてしまう。


「太陽おおおぉぉぉおおおっっっ! 喜べ! 他に四人と約束をとりつけてきたぞ! しかもそのうち三人は女子だああぁぁぁっっ!」


 塚本が戻ってきた。しかも意外な戦果せんかを引っさげて。

 とりあえず今日の放課後は楽しいことになりそうだ。


 ……

 …………

 ………………


 そして放課後。

 塚本が別れたばかりの彼女と付き合うきっかけにもなった隣街のゲーセンへと繰り出した。


 他の4人はそれぞれ寄りたいところがあるとのことなので、俺と塚本だけ先に来ている。

 こりゃブッチされる可能性大だな。


「ジュースでも買ってくるけど、太陽はなんか飲むか?」

「ああ、俺コーラを頼む」


 塚本は買い物に行ったし、これで少しの間は一人ってわけだ。

 暇だし何か適当にゲームでもするか。


 俺は近くのUFOキャッチャーにワンコイン投入し集中する。

 アームを巧みに動かし、「よし! ここだ!」と思ったジャストな位置まで移動させた思った瞬間、


「お待たせっ!」


 背後で大きな声がしてわずかにタイミングがズレた。

 当然景品は出てこない。


「おい! 人がUFOキャッチャーしている時に背後から大声……は……」


 背後にいたのは塚本でも、他の参加メンバーでもなかった。

 見慣れない制服を着た、このあたりでは見慣れない容姿をした金髪の女の子だった。


「ごめんごめん。久しぶりに会えたから嬉しくてつい……」


 はにかみながら人差し指で軽くほおをかく。


「馬鹿野朗……無事なら無事ってもっと教えろよ」


「そうしたかったのは山々なんだけどね。しばらく面会謝絶状態でさ、無理言って職場復帰できたのが昨日なんだ。ごめんね……連絡が遅くなって。心配した?」


「したに決まっているだろう!」


 キズナの両肩を掴み怒鳴る。

 店中の視線がこちらへ向く。


 触れているのに俺の声が聞こえているということは、ステルスモードは切っているのだろう。

 だがそんなことはどうでもいい!


「良かった……連絡がないから助からなかったのかと思ってた……そうか、無事だったのか。本当に……良かった」

「ちょっと!? 泣かないでよ! 男でしょ!?」


「いいんだよ。男だって嬉しいときは泣いたっていいんだよ! 今みたいな嬉しいときは!」


 溢れる涙が止まらなかった。

 絆がそれを見かねてハンカチを貸してくれた。

 そのハンカチで涙を拭いていたとき塚本が戻ってきてキズナを見る。


「何の騒ぎかと思って来てみれば……おい太陽、この金髪のものすごいかわいい子、お前の知り合いなのか?」


 俺の腹を軽くひじでつつきつつ尋ねる塚本。

 視線はキズナのおっぱいにロックオンしている。


 ……まあ、たしかにデカいもんな。気持ちはわかる。

 でもデリカシーないから止めろ。


「塚本」

「ん?」


「今日のメンバー、一人追加な」




 ――FIN―― 





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 《あとがき》

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 これが私がプロになるきっかけになった作品の全貌です。

 10年以上前にこの作品を書いた時の気持ちを思い出せて非常に楽しかったです。


 この作品は受賞こそしませんでしたが、デビュー作を書くきっかけになった作品でもありますし、何より初めて高次に残った作品でもあるので個人的に思い入れがあります。


 当時の評価シートで物語が5点満点中4で、キャラクターが5だったかな?


 公募でデビューを目指している方は良ければ参考にしてみてください。

 なお、これを呼んだ編集さん全員から


「ラブコメのつもりで読んでいるんだから最後までラブコメを読ませろ」


 と総ツッコミを食らっているので、どんでん返しを試みている人はジャンルが変わるどんでん返しは止めた方が無難です。

 読者はラブコメを読みたくて読んだのにサイコホラーだったとかなったら普通怒ります。

 ※例外として喜ぶ人もいるでしょうが少数です。大多数の読者を意識しましょう。


 MF文庫Jからいくつか出していますし、シリウスで漫画原作もやったことがありますので、よければそちらも読んでみてください。

 それでは、また別の作品でお会いしましょう。

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どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について 塀流 通留 @UzukuSouhei

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