第10話 思春期童貞のピンク色の妄想

「さて、始める前にちょっとおさらい。Wish Starによる運命の修正に最低限必要なものは?」

「相手の顔と名前だろ?」


「その通り。でも、それで修正可能なのは軽いバグのみ。重いバグを修正するに必要なものは?」

「イベントスケジュールの設定だよな。実行することで愛が深まっていくようなやつ」

「そうそう」


 よくよく考えたらミュージカルって愛が深まるのかな、あれ?

 まあ、先生たちの場合お互い好き同士だったし問題はないんだろうな。アレでも。


「じゃあ最後、太陽のバグのレベルは?」

「最高の4。全ての恋愛フラグをなかったことにする最悪のやつ」


「そう、それを修正するには会相手の名前を書くだけでは不十分。だから――」

「イベントスケジュールの設定が必須ひっすってことだよな」


 うん――と、キズナがうなずいた。


「実行したら愛が深まるような、ラブラブイベントを書きしるすこと。それが太陽の仕事だから」

「任せろ。思春期ししゅんき童貞どうてい彼女なしDKの妄想力もうそうりょくを舐めるなよ?」


 こんな時のために、俺たちお年頃としごろの男たちは、常に実戦を想定して考えているのだ。

 その想定が役に立ったことはないけど!


「よし、任せた。書き終わったら一回ボクに見せてね」

「どうして? 入力したらそれを実行するだけでいいんじゃ?」


「十分に愛が深まるか確認しないと。そうじゃなかったらバグに負けて、全ての作業が無駄になるんだよ?」


 それは嫌だな。

 せっかく頑張がんばったのに意味はなかったとかなったらとても悲しい。


「わかったよ。終わったら見せるから適当にくつろいでてくれ」


 そう言って俺は作業に入った。

 日頃からきたえられた妄想力を武器に、やってみたいシチュエーションを書き記した。

 そしてキズナに見せる。


「全然ダメ。やりなおし」


 天使様にダメ出しされた。

 どうやらキズナの評価基準はかなり高いようだ。

 気を取り直してもう一度書く。


「ダメ。この程度ていどじゃバグは修正されない」

「むぅ……難しいな」

「もっと強くラブラブさせてよ。恥ずかしがらずに脳内ピンク色の妄想をれ流そうよ!」:


 キズナが言う。

 お前こんなもんじゃねえだろ!

 もっと、こう……ガツンと来いよ! と。


 よーし、わかったぜ!

 ピンク色の妄想をガツンとノートにぶつけてやるよ!


「どうだ! これで文句ないだろ!」

「あるわ! こんなのダメに決まってるでしょ!」


「な、何故なぜだ……? ちゃんとラブラブしているのに……」

「過程すっ飛ばしていきなりラブホに直行すんな! ボクはねえ、ラブラブシナリオを書けとは言ったけど、18禁の官能かんのう小説書けとは言ってないんだよ!」


「で、でもラブラブすんのは間違いないぞ? ラブホの名前だってホテル2in1って……2人で入って1つになるって意味の……」

「合体禁止! そこまではまだダメ!」


 愛をりまく存在なのに、愛の行為こういそのものを禁止するとは思わなかった。


「太陽さあ、もっと、こう、過程かていを楽しもうよ。思春期だし童貞だし、2in1合体したいのはわかるけど、それにいたるまでの過程だって全然楽しいじゃん」

「……お前の言う通りだな」


 反省した。

 ラブラブという単語に引っ張られすぎてしまっていたようだ。


 彼女さえできれば最終的にいつかはそうなるわけだし、あせらず慎重に行こう。

 今を、過程を楽しむようなシナリオを書こう。


「できたぞ。これでどうだ?」

「うん、いいね! これでいこう!」


 やっと許可が出た。

 では早速――、


「じゃあこのレベルのシナリオをあと7つほど書こうか」

「7つ!?」


 聞いてないぞそんなの!

 1つじゃないのかよ!?


「まっさかあ。太陽のバグは最悪のレベル4なんだよ? 1つで修正できっこないじゃん」


 レベル4バグを除去じょきょするために必要なもの。

 それはずばりフラグの質と量なんだよ!

 キズナはそう力説りきせつする。


「それで……あと7つですか?」

「うん、あと7つ」


「俺、普通の高校生だよ? そんな俺にあと7つもシナリオ書けとか、俺に死ねと?」

「大丈夫大丈夫♪ 1つ書けたんだから7つなんて余裕余裕♪」


 余裕なわけねえだろ!

 そのメロンみたいな乳もみくちゃにすんぞ! このボクッ娘巨乳天使が!


 って言えたらなあ!

 助けてもらう立場なのでそう強く出れないのが悲しいところだ。


 結局、俺は何とか頑張って残り7つのシナリオを完成させた。

 出会いから帰宅まで――時間も設定したガッチガチのイベントシナリオを合計8つ。

 ゲームシナリオの仕事ってこんな感じなのかもしれない。


「本当にお疲れさま。素人しろうとなのによく頑張ったね。偉い!」

「ふ、まあそれほどでもあるけどな」


 書いている途中とちゅう、脳内で勝手にキャラクターが動き出してくれて助かったぜ。


「それじゃあこれをWishStarに入力して。はい、モテホン」


 キズナが例のスマホを渡してきた。


「ちなみにお相手は誰にするの?」

「決まってるだろ。八舞やまいさんだよ」


「八舞……ああ、さっきの」

「そう、彼女だ。実は俺、一年の頃からずっと好きだったんだよな」


「ふーん、えーと……お、よかったじゃん。彼女も太陽のこと気になってたみたいだよ」

「マジでか!? やったぜ!」


「でもバグのせいでここ最近は『良い人なんだけど』って評価から動いていないね」

「チクショウ! なんてこった!」


「その評価を動かすためにコレがある。さあ太陽、彼女、作っちゃおうぜ♪」


 ……

 …………

 ………………


 そして1時間後、日付をまたぐころになってようやく俺は入力を終えた。


「ふぁ……」


 やることが終わった達成感から気がゆるんだのか、キズナがかわいく欠伸あくびをした。

 色々あったし、無理もないと思う。


「ごめん太陽、ボクちょっと眠くなってきちゃった」

「了解。じゃあ、今日はもうお開きだな」


 やることは終わっているし問題ない。


「今日はお疲れさま」

「ん、お疲れさま。それじゃお休みー」


 そう言ってキズナは、俺の部屋へと歩いて行った。

 おい。ちょっと待て。

 泊めるとは言ったけど俺の部屋とは言ってねえぞ。




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 《あとがき》

 1日開けちゃってすいません。

 ここもリメイク前とは大きく文章が変わっています。

 直すの大変……

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