第28話 アクセラレイション

「これだ! これが原因で……だからあの時……」


 4月30日、午前3時、天界――。


 眠気覚ましのブラックコーヒーをすすりながら、先の不自然な現象について調べていたキズナ。

 努力のかいもあり、ついに彼女はその原因に辿たどり着く。


「相手の彼女、八舞真奈ちゃんの太陽への愛情が図書館を出てから急激きゅうげきに加速しつづけている。いや、それ以前、シナリオが開始された当初からその傾向は若干見て取れる。愛情が加速して止まらなくなっているこの現象……これは間違いなく〈アクセラレイション〉!」


 〈アクセラレイション〉とは、その名の通り愛情が《加速》し、本人の理性や常識などを消し飛ばしてしまうバグだ。


 人間界で愛情が行き過ぎてしまい、愛ゆえに人を殺してしまうことがある。

 その事件の原因は100%これだ。

 アカシックレコード発生したこのバグによって引き起こされる。


 このバグは一緒にいると想いが加速するので、片方を隔離かくりし対応に当たらなければならない。

 対象者同士の接触をふうじ、その間に専用の修正バッチを当てる。


 それができれば、この件は無事に解決する。

 今から発注書はっちゅうしょを発行すれば、今日の正午には正真正銘しょうしんしょうめい、修正を完了させることができるだろう。


「見つかったのが今でよかった……朝になって2人が出会っていたら多分、いや絶対間に合わなかっただろうなあ。専用バッチを作ってもらうまで太陽に彼女と会わないように言っておかないと」


 机の上に置いておいたタブレットを操作し、通信機能をオンに。

 太陽の心に直接呼びかける。

 しかし――何も反応がない。


「それもそっか、今は夜中の4時だったね。起きている可能性は低いか」


 キズナは報告事項をまとめたメールを作成し、太陽のスマホへと送る。

 モテホンにもメーラー機能はあるが、厳重に保管するように言ってあるので携帯していないだろう。


「よし、あとは発注書を作るだけだ」


 対象となる太陽の彼女、八舞真奈のデータを参照さんしょうしつつ、開発部向けの文章を作成していたところで、キズナは異変に気づいた。


「えっ!? 彼女の太陽への愛情がさっきよりも急速に増加している。寝ている間や離れているは、想いがつのることはあっても《加速》することはないのに……まさか!?」


 キズナは発注書を即書き上げると上司へ送信。

 タブレットに太陽の様子を映し出した。


 しばられ、怪我けがをし、泡を吹きつつ苦しむ太陽。

 愛情のこもった笑顔で見つめる真奈。


「何で彼女が今!?」


 予想外の光景に思わず声が出る。

 交際は今日の昼から始まったはず、いくら《アクセラレイション》が愛情を異常加速させるバグだとしてもこの速度はおかしい。


「まさか、レベル4バグと結びついたことでバグが異常強化された!?」


 その問いに答える者は誰もいない。


『太陽! ボクの声が聞こえる!? 太陽!』


 太陽はピクリとも動かない。

 意識はありそうだが、それだけだ。


「まずいっ!」


 キズナは急いで部屋を飛び出した。

 このままでは太陽の命が危ない。


 部屋を飛び出す前、チラリと真奈の愛情グラフを見た。

 加速し続けていた彼女の愛情は、ほぼ垂直だった。


 午前3時をさかいに、急激に数値がね上がっている。

 今すぐ現場へ急行して太陽を保護ほごしなければ……おそらく、


「お願い……っ! 無事でいて太陽!」


 キズナは下界への門に向かった。

 時刻は4月30日午前3時31分。 

 太陽の思い出が灰にされたわずか1分後のこと。





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 《あとがき》

 とうとうバグの正体が判明しました。

 このバグに二人は勝てるのか?

 運命を乗り越えられるのか?

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