第27話 愛のままにわがままに私はあなたを傷つける
――ちゃんと受け止めて。
言うが早いか、八舞さんは叩きつけたものを回収するとその
中からは食欲をそそられるにおいがする……カレーだ。
が、色合いが少しおかしい。
本来茶色であるはずのカレーが緑色っぽくなっている上、かすかに得体の知れないにおいまでする。
「さっきのカレーを作り直してみたの。2度と浮気しないように、嘘なんてつけないように、私の愛情がた~っぷり詰まっているから、全部食べてね♪」
ニッコリと笑いながら言う彼女だが、こちらは全く笑えない。
愛情って、これ明らかに物理的な何かだよな!?
正直こんなものを口に入れたくない。
いくら彼女が作ってくれたものだとしても、今の彼女はおかしすぎる。
だが、そんな思いも
女の子の力とは思えないほどのものすごい力だ。
「はい、太陽くん。あ~ん♪」
「ん、んぅっ!? んん~~っ!」
こんな嬉しくない「あ~ん♪」は初めてだ!
首を振って抜けようとするが、全く手が外れない。
手が自由でも、おそらく抵抗はできなかったのではないだろうか?
「んーっ! んんンぅーっ!」
「だめよ、ちゃんと食べてくれないと……絶対許さない」
彼女が浮かべている微笑みが消え、
あまりの迫力で反射的に息をのんでしまい、このカレーを飲み込んでしまう。
「うが……ぁ、ああぁぁぁ……」
「どう? おいしい?」
そんなわけない!
カレーを飲み込まされた瞬間、
全身を業火が包み込んだかのように熱くなる。
「私の愛を感じてもらえた? 燃え上がるような想いでしょ?」
「ぐ……ぁぐうぅ……」
「そんなにもあなたを愛してるの。だから、もう2度と嘘なんてつかないでね? 浮気なんてしないでね? でないと私、悲しくなって――」
――どんなことをするかわからないもの。
これは、本気だ。
本気で彼女はそう思っている。どうかしてしまっている。
まるで別人のようになってしまった、俺の知らない彼女がいる。
俺は混乱と恐怖で、ただ
「よかった♪ じゃあ、残さず食べてね。私からの愛の証だもの」
「!?」
「食べて、くれるわよね……?」
頷くしか、なかった。
……
…………
………………
もう、何分
全て
そして一旦地下室を出て行き、再び彼女は戻ってきた。
手には大きめのビニール袋。
中に結構な量の何かが詰め込まれている。
「太陽くん。さっき私と約束してくれたわよね? 『浮気と取られるような行動はしない』って」
俺は何も答えなかった。
いや、答えられなかった。
奇跡的に意識は
そんな俺の状態を一切気にすることなく彼女は話を進める。
「私ね、太陽くんにはずっと私だけを見て欲しいの。いつ、どこで、どんな状況下であっても常に私だけを。手足を縛られ泡を吹いているこんな状況下でも、私のことだけを思っていてほしいの。だからね……『こういうもの』は見ないでほしいな」
――ザザーッ!
彼女が袋を引っくり返すと大量の本が飛び出してきた。
健康的かつ正常な日本男子ならば、誰もが持っているあの本だ。
「あとこれも。もう私がいるんだから二次元の女の子と付き合う必要なんてないわよね?」
続けて無記名のDVD。
中身は言わずともわかるよな?
「太陽くんはこれから私と幸せになるの。私とずっと付き合って25歳の私の誕生日にプロポーズして結婚するの。プロポーズの言葉は『
彼女は立ち上がると、ホームパーティー用に
……まさか!?
「だから、もう
――ヂャッ!
マッチの
「二次元でも女の子は女の子。浮気は許しません。新しい人生の
種火を
積み上げられた大量の俺の思い出が、「パキン……パキン……」と、チョコレートのような音を立てつつ灰になっていく。
意識は元に戻ったが、未だ満足に身体を動かせない俺には、自分の思い出が、塚本との友情の証が、灰になって行く様を止めることなどできなかった。
紙とプラスチックが燃えるにおいが、ダクトを通って外へと出て行く。
そして彼女も、
「じゃあ太陽くん、そのまま朝まで反省すること。朝食ができたら出してあげるから」
金属製のドアを開けて地下室を出て行った。階段を上るスリッパの音がパタパタと鳴り、消えた。
俺は大切なものがただ燃え行く様をただ見ていることしかできなかった。
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《あとがき》
精神的な拷問を受ける主人公。
肉体的なダメージもある。
カレー(物体X)……一体どうやって作るんだ?
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